熊谷知事を表敬訪問した稲田弘さん。アイアンマンレース世界最高齢の完走記録を保持する=16日、県庁(岡田浩明撮影)

ピンと伸びた背筋、はきはきした語り口、耳も遠くない。91歳とは思えない千葉県八千代市のトライアスロン選手、稲田弘(ひろむ)さんがアイアンマン世界選手権で最高齢完走のギネス記録を樹立したのは6年前だった。当時は85歳。今年は自分の手で自身の記録更新に挑む。「僕みたいな『じいさま』でもやればできる」。揺るぎない信念と仲間の激励が背中を押す。

稲田さんが最高齢完走記録を塗り替えようとするレースはアイアンマン世界選手権。スイム(水泳)3・8キロ、バイク(自転車)180・2キロ、ラン(マラソン)は42・2キロの計約226キロを制限時間内に走破しなければいけない。トライアスロンの中で最も過酷な鉄人レースだ。

今年6月のオーストラリアでの大会で完走すれば、10月のアイアンマン世界選手権の出場権を獲得。その大舞台で完走すれば最高齢完走記録が更新される。

「まず出場権が取れるよう頑張りたい」。16日、県庁に熊谷俊人知事を表敬訪問した稲田さんは意欲をみせる。同席した山本淳一コーチ(50)が「前人未到の自分のギネス記録を自分で更新しようと走り続けており、応援したい」といえば、熊谷知事も「刺激を受ける。ぜひ挑戦を続けてほしい」とエールを送った。

トライアスロンに没頭するようになったのは60歳の定年後、自宅近くのスポーツジムで水泳を始めたのがきっかけ。メタボ体形の改善と体を動かさなければ寝たきりになるという気持ちで始めた。

バイク、ラン、スイム-。体力を維持するため、毎日、トレーニングを欠かさない。館山市内で合宿することも。「房総半島は気候が良く、素晴らしい。食べ物もおいしい」と稲田さん。体力的な衰えも感じるが、「使っていない筋肉を使ったりして体を動かしていると、必ず発見があり、うれしい。(練習中に)『うれしい』と叫ぶこともある」と白い歯を見せる。

練習などの合間には、スマートフォンをいじる。年下の選手への激励メッセージを送るため、「画面をポチポチしている」(山本コーチ)。レースで苦しいときは、その仲間の励ましが「背中を押してくれる」(稲田さん)という。

食事にも配慮する。妻に先立たれ、栄養バランスのあるメニューを自炊でつくる。朝食は野菜スープ、ライ麦パンに豆乳。夕飯はメザシに玄米、具だくさんのみそ汁といった具合だ。

「トライアスロンは僕の人生そのもの。楽しいからできる。『まだ俺はやれるぞ』という気持ちが残っている間は続けたい」。超高齢化社会が進展する中、定年退職後、いわば人生の後半戦をどう過ごすかに悩む後輩も少なくない。

「『できない』と思わず、やりたいことをやってみれば必ずできる。楽しい人生を送れるよ」。自分に言い聞かせるようにアドバイスする稲田さんの挑戦に終わりはない。(岡田浩明)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。