あなたが電波もニュースも届かない自然の中で育ったとする。もちろんスマホもない。初めて文明を見たらどう感じるだろう。

この本が世に出たのは100年以上も昔だ。南太平洋・サモアの島の族長ツイアビが「文明と物質が生活を豊かにする、と信じて疑わない人々」のいる文明国(ヨーロッパ)を旅して、体験や印象をまとめた本である。パパラギとは文明国の白人を指す言葉だったが、今なら日本人やほとんどの現代人があてはまるだろう。

訳者はこの本を、若い世代のためにリメイクした。お金から物、機械や職業、そして知識や時間まで10のテーマに分けてツイアビの言葉を紹介している。身近なものばかりだ。

私は都会で生まれ育ったからこそ思う、本当に「便利=幸せ」なのか。この本はそんな私の疑問にやさしく答えてくれた。

ツイアビは語る。「村じゅうみんなで小屋を建て、みんなでそれを祝うのはどんなに楽しいか、今さら言うまでもない」と。パパラギたちは仕事を楽しめず、「時間の恐怖にとりつかれている」という。「私たちの仕事はほんの少しで、職業を持つパパラギにとっては貧しく見えるかもしれない。だが、たくさんの島のきょうだいたちは、喜びとともに自分の仕事をする。苦しみながらではない」

ワークライフバランスやハラスメントなどと言っている現代社会と比べてしまう。ツイアビの島ではみんなで楽しく、少しの仕事に喜びを感じながら生きていたのだから。

不便でも不幸だとは思えない。物より人との結びつきが大事で、それが豊かであるほど幸せなのだと思えた。文明国への先入観のない目の向け方が面白く、一文一文が心に刺さる。

東京都調布市 伊藤葉月(14)

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