災害時に犬や猫などペットと同居できる避難所として民間の葬儀場を活用する計画を、奈良県の防災団体と葬儀会社が進めている。ペットと同じ部屋で過ごせる避難所は少なく、能登半島地震でも、ペットと一緒に過ごすため被災家屋にとどまったり、車中泊を選んだりする被災者の姿が見られた。団体は「同様の取り組みが各地に広がれば」と期待している。
環境省が推奨
地域の防災活動に取り組む市民グループ「あいすのぼう」(奈良県香芝市)。代表の沖本可奈さん(49)が昨夏、同市主催の防災勉強会で、ペット防災に関心のある安岡祐子さん(54)と出会ったことが一つのきっかけになった。
災害時にペットと一緒に避難する「同行避難」は、環境省が推奨し、全国でも認知されてきた。だがペットと同じスペースで過ごせる避難所は、過去の災害でも一部自治体でしか開設されたことがない。ペットの騒音や衛生面などから、どうしても敬遠されがちな現状を、沖本さんは安岡さんから教えられた。
だがペットは飼い主にとって家族同然。いい解決策はないかと沖本さんが思案していたとき、知人の橋本壱崇さん(40)が社長を務める同市の葬儀会社「縁セレモニー」で、ペット同伴可能な葬儀を行っていることを思い出した。
事前の登録制
葬儀場を避難所に活用できないか-。沖本さんの打診に、橋本さんも「スタッフもペットの扱いに慣れている。ぜひ協力したい」と快諾した。
災害時の葬儀場活用を巡っては、宮崎市や埼玉県草加市が地元葬儀会社と協定を締結するなど他地域でも例があるが、ペット同伴可能な避難所とするケースは珍しい。
計画では犬や猫、ウサギ、鳥のペットを想定。発災後2週間程度、ケージに入れた上で葬儀場の同じ部屋で無償で避難生活を送ってもらう。葬儀はその間、別の施設で行う。利用は事前登録制とし今後専用のウェブサイトを立ち上げる。年内には災害時を想定した避難訓練を葬儀場で行い、実際の運用に向けて課題を洗い出す。
ケージ訓練を
ただ飼い主側の備えも必ずしも十分とはいえない。ペット保険を取り扱う「アイペット損害保険」(東京)が2月に全国の犬猫飼育者千人に実施したアンケートではケージの準備といったペットの防災対策を「全くしていない」と答えた人が35・9%で、「あまりしていない」を含めると74・3%に上った。
東京都獣医師会事務局長でペット防災のNPO法人「アナイス」の理事長を務める平井潤子さんによると、災害時はペットをケージに入れて飼育することが原則となるが「ケージに入り慣れていない」などの理由で避難所を避け、車中泊や倒壊危険のある自宅で過ごすことを選ぶ避難者も少なくない。「日頃からペットをケージに入れるトレーニングや、避難用具の備えをしてほしい」と求めた。
能登半島地震で被災した石川県輪島市の水口薫さん(45)は犬と一緒に公民館に避難できたものの、夜間はほかの避難者に遠慮して車やテントで過ごした。「ペットが心配で家で生活し、火事で亡くなった人もいたと聞いた。飼い主の命を守るうえでも態勢は日頃から整えておく必要はある」。沖本さんは「まずは民間から検討を進めたい」と力を込めた。(秋山紀浩)
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