トレイルランニングを楽しむ筆者 ©POPPISSUOMELA

<長く暗い冬も何のその、フィンランド流ライフスタイルで家庭でも職場でも皆が幸せに>

フィンランドにはこんなことわざがある。「幸せを手にした者は、それを隠さなければらない」

フィンランドが2018年から7年間「世界一幸福な国」になっている秘密は、きっとこういうフレーズにあると思う。そこで、私は誰もが最高に幸せになるフィンランド流の秘訣を探り続けてきた。

私がCEOを務めるフィンランド企業ハッピーオアノットは、顧客満足度向上ツールを開発。空港や店舗といった施設に専用機器を設置し、顧客が押すスマイリーボタンの表情で満足度を4段階で計測し、リアルタイムで企業にフィードバックする。

言っておくが「世界一幸せな国」という称号はフィンランド人が付けたわけではない。国連の「世界幸福度報告書」でフィンランドが毎年世界一に選ばれているのだ。

わが国を訪れたことのない人のために「世界一」の秘訣をいくつか説明しよう。

■自然と触れ合う

まずは大自然。「1000の湖の国」と呼ばれるだけあって、フィンランドは自然に囲まれて暮らすには理想的だ。私のようなトレイルランナー向きの未舗装の道もたくさんある。

自然との触れ合いは仕事や社会のストレス軽減に大いに役立つ。ハイキングとまではいかなくても、公園を1日5分歩くほうが35分だらだらとTikTokで動画を見るより良い。

■へこたれない

不屈の意志もフィンランド人の充足感に大いに貢献している。フィンランドの気候は時に過酷で、冬は雪と北極圏の身を刺すような風のせいで長く暗い。なぜ私たちの祖先はこんな所にとどまったのか。彼らが定住を決意したのは雲一つない夏の日だったに違いない。

それでも我慢できるのは「シス」のおかげだ。シスは恐らくフィンランド流の考え方の中で最も有名で、決意や勇気や意志の強さなどを表す。逆境にもめげずに限界まで頑張る能力と言ってもいい。

■職場での信頼関係

その一方で、フィンランド人はいつまでもくよくよしないことで得をしている面もあると思う。フィンランド社会は信頼を非常に重視する。

その一例がフレキシブルな働き方だ。社員は私がCEOの職責を果たすと信頼し、私も社員を信頼して彼らのやり方に任せている。

管理職はどうすればチームのメンバーの能力を最大限引き出せるかを考えるようにするといい。そうすることで、私も社員もほかの人間が何をしているかをいちいち気にしていない。

自然との触れ合いはストレスを和らげると筆者は指摘する ROBERTO MOIOLA/SYSAWORLD/GETTY IMAGES

こうした自由と信頼は職場だけにとどまらない。例えばフィンランドではバスに財布を置き忘れてもほぼ確実に戻ってくる。以前、米リーダーズ・ダイジェスト誌が世界各地でわざと12個ずつ財布を落として実験した結果、持ち主の元に戻った財布はフィンランドの首都ヘルシンキが12個中11個で世界トップだったという。

それでも災難は起き、人生は私たちに思わぬ難題を吹っかけてくるが、こうしたプラス思考と信頼が育む幸福感と充足感のほうが、それらの災難や難題をはるかに上回っている。

■家庭を大切にする

次は家庭と仕事だ。私は親として夫として、自分の幸せが家族の幸せと切っても切り離せないと分かっている。深夜や週末まで仕事をすれば、その間は家族を犠牲にすることになる。

誰もが休暇を取る権利を尊重するのも私たちフィンランド人が幸福度を維持する方法の1つ。健全なワークライフバランスが必要不可欠だ。

フィンランドの年間休暇日数は平均4~5週間。この充電のチャンスに社員はたっぷり休養し、新鮮なアイデアと視点を職場に持ち帰る。

■競争心はほどほどに

最後になったが、競争心はほどほどにしておくことも重要だ。競争心は大きなモチベーションになり得るが、それだけにとらわれてはいけない。

冒頭で書いたように、自分の幸せをひけらかさないことこそ、フィンランド人と異文化の多くの人々との違いだ。

例えば、私は子供の頃、作家になるのが夢だった。それが数年後には建築家に変わり、それからさらに企業戦略家に変わった。自分の好きなことをするのが成功と幸せにつながると教えられた。

今はソーシャルメディアの時代だ。その結果、残念ながら、財力と影響力が成功の尺度になっている。ソーシャルメディアには名声と富を手に入れる「ノウハウ」だの「近道」だのがあふれ、大勢の人々が実現不可能な夢を追いかける。幸せが約束されているわけではないのに、だ。

フィンランドでは名声や富はあまり通用しない。お国柄から、名声や富で私たちの価値や幸福度が決まるわけではないと心得ているのだ。代わりにフィンランド人はもっとひそかな充足感を求める。

例えば、アメリカとフィンランドではビジネスリーダーの乗る車が違う。アメリカでは企業トップの車はその企業の成功を象徴する。高級車であれば将来有望な安定した企業ということだ。

一方、フィンランドでは、派手な車は傲慢さや優越感の表れと見なされかねない。企業経営者は大成功してフェラーリに乗るようになっても、顧客を訪ねるときはおんぼろの小型車に乗り、富や名声を手にしても彼自身は変わっていないことをアピールする。

こうしたフィンランド人特有の幸福観にもかかわらず、大成功しているフィンランド企業もある。通信機器大手ノキア、スマホゲーム開発企業スーパーセルや指輪型健康トラッカーで有名になったオーラといったスタートアップ企業などだ。

フィンランドが今後も「世界一幸福な国」でいられるかどうかはまだ分からない。それでも国連の「世界幸福度報告書」は、世界中の誰もが幸福になっていいのだと改めて気付かせてくれる。

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