北九州市小倉北区の「到津の森公園」で、「子ども汽車」として半世紀以上親しまれたSL型車両が引退し、かしいかえん(福岡市東区、2021年閉園)で使われていた車両が後継として導入される。23年に亡くなった男性の遺産で購入し、塗装は業界団体が無償で引き受け、11月2日にお披露目される予定(雨天順延)。初日、2日目は無料で乗車できる。
50年以上動いてきた「子ども汽車」
子ども汽車の車体はC53形蒸気機関車がモデルで、電動モーターで動き客車3両を牽引している。導入時期は、到津の森公園の前身の到津遊園だった昭和30(1955)年前後という説があるが、明確な資料がなくはっきりしない。遅くとも設備プレートに記された1969年2月には同園にあり、以来50年以上現役で動いてきた。
老朽化が激しく、部品も製造されなくなり、同園の遊具を管理運営する「スカイパーク」(佐賀県基山町)が代替品での修理や補修を施してきたが、追いつかなくなった。数年以内の買い換えや大規模改修の必要性を検討していたところ、高知県の会社に旧かしいかえんで「ロッキー号」として使われていた車体があることが分かった。だが、車体購入やレール交換費用として約1300万円がかかるという。
亡くなった男性の寄付
折しも、小倉北区に住んでいた田邊丈士さん(昨年、92歳で死去)から「福祉団体等に寄付してほしい」と遺言執行を依頼され、寄付先を探していた元司法書士の加藤千佳さん(77)がその窮状を知り、「次世代に残せて多くの子どもたちが享受できる。彼の遺志を表現できる」として購入費の寄付を決めた。
さらに、塗装を依頼した北九州塗装協同組合(津田伸二理事長)も「地域に馴染みの場所に貢献したい」と、塗料代を負担し、塗装も無償で引き受けた。
田邊さんの真心「次の世代に伝われば」
車体は、2日間かけかしいかえん時代のピンク色から「SLらしい」光沢のある黒と金に塗り上げられ、到津の森公園で安全点検など最終調整中という。同組合の志水章吾さん(44)は「私も子供も到津のSLに乗った思い出がある。孫の代にもずっと親しまれる車両になってほしい」と話した。
加藤さんによると、田邊さんは豪快な性格が印象的だったが、会社員だったことしか分からない。妻に先立たれ、親戚とは疎遠だったという。
加藤さんは「田邊さんは有名人でもなく、亡くなったら忘れられてしまうかもしれない市井の人。それでも子どものために心を砕く人がいたと、次の世代に伝わればうれしい」と話した。【山下智恵】
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