特集は伝統工芸を学ぶ職人の卵たちです。長野県上松町にある木工技術の職業訓練校では2024年度も、職人を目指して39人が学んでいます。進む道はそれぞれですが、実は全ての訓練生が漆塗りを学んでいて訓練校の特徴ともなっています。

■県内唯一 木工技術が学べる職業訓練校

真剣な表情で作業する大人たち。木椀や板に塗っているのは「漆」です。

上松町にある県内で唯一、木工技術が学べる職業訓練校「県上松技術専門校」。この日、漆塗りの授業が始まりました。

木材造形科・倉持海音さん(35):
「漆の茶色がきれいに仕上がってくれたらいいなと」

木材造形科・伊藤栄章さん(28):
「むらとかが出やすかったので難しかった。伝統工法とか伝統技術に興味があるので、追及しがいがあるところだと思って」

伝統の技を学ぶ。木曽に立地する「技専」ならではの授業です。


木曽の「技専」は終戦の翌年、1946(昭和21)年の開校。家具づくりなどを学ぶ「木工科」と漆塗りやろくろなど伝統工芸を学ぶ「木材造形科」があり、これまでに約4000人を輩出しています。

2024年度の訓練生は二つの科合わせて39人。6割以上が県外出身で、18歳から65歳と幅広い世代が学んでいます。

訓練生最年長(愛知県出身)・宮田正彦さん(65):
「20代の頃に、家具職人になろうと思ったが、何のチャレンジもせずに夢を諦めていたが、昔したいことや、やりたいこととか実現させてから死ぬしかないと思った」

アメリカ・フロリダ州出身 アズース・エランさん(37):
「日本の手工具、鉋とノミとか、素晴らしいと思います。(将来)できれば自分の小さな工房を持ちたい」

元インテリアコーディネーター(中野市出身)・土屋美稀さん(25):
「家具って長く使ってもらうものだと思うので、買ってからも次の世代にも使ってもらえるような家具が作れたらと思います」

入校の理由や目指す道はさまざまですが、1年間、木工漬けの日々を送ります。


■仕事の醍醐味、厳しさを知る

入校から半年。伝統工芸「漆塗り」の授業が始まりました。

結果の良し悪しがはっきりとわかる漆塗り。手仕事の醍醐味・厳しさを知ってもらうため、全ての訓練生が学びます。

北原進さん:
「漆を手早く、一回目が一番むらになりやすい」

講師はこの道38年の漆職人・北原進さん(57)と職人歴60年、「信州の名工」にも選ばれた宮原正岳さん(76)です。

宮原正岳さん:
「勘と経験と、職人は工夫ですので、そこをわかっていただければ」

旧楢川村・現在の塩尻市平沢地区に作業場や店を構える2人。忙しい仕事の合間を縫って「技専」で教えるのには職人側の思惑もあります。

職人歴60年・宮原正岳さん:
「今、仕事の漆屋さんも後継者不足っていうことがあって(訓練生の)中で漆を使って仕事にしてくれたら、そんなにいいことないよね」


■高齢化、後継者不足

丈夫で、使い込むほど味わいが増す木曽の漆器。400年以上の歴史があります。

しかし、取り巻く環境は年々厳しさを増しています。


「漆器組合」の人数は1989年は220人でしたが2023年は半分以下の102人に。当時79億円だった生産額も2023年度は18億円に。

背景にあるのは「職人の高齢化」と「後継者不足」です。

職人歴60年・宮原正岳さん:
「どの伝統産業でもそうだろうと思うけども、なかなかね。後継者はもっときれいで、給料が良くて、もっと現代的な仕事に就きたいんじゃないかね」

「木工」を学ぶ人たちにその魅力を伝えたいと宮原さんは6年前、北原さんは4年前から講師を務めています。


■職人の卵たちが漆塗りに挑戦 

授業で教えるのは「拭き漆」。漆を塗っては薄い布「寒冷紗(かんれいしゃ)」で拭き取っていき、木目を生かして仕上げる基本的な技法です。

職人歴38年・北原進さん:
「最初は(ヘラを)縦気味、だんだん寝かせていく感じ」

木のプレートに塗るのは2023年、定年退職して入校した、最年長の宮田正彦さん(65)。

訓練生最年長・宮田正彦さん(65):
「新しい発見ばかりで面白い、知らないことを教えてもらえるので」


元インテリアコーディネーター・土屋美稀さん(25):
「これが本命の小皿、こっちは時間があったので木彫りのクマを作って、かわいい感じになりました」

インテリアコーディネーターから職人の道を進もうとしている中野市出身の土屋美稀さん(25)。木の性質による「乗り」の違いに苦戦していました。

元インテリアコーディネーター・土屋美稀さん:
「このむらはどうしようもないですよね、顔だけ黒くなりました」

職人歴60年・宮原正岳さん:
「こっちが縦目だもん、こっちは横目。木口は(漆を)吸いやすい、吸って黒くなる」
「これはネコ?」

土屋美稀さん:
「クマです(笑)」


■アメリカ出身の男性も職人目指し

アメリカ出身のエランさん(37)。日本人の妻と結婚したのを機に愛知県へ。憧れの職人を目指しています。

アメリカ・フロリダ州出身 アズース・エランさん:
「(漆塗りは)アメリカでは聞いたことないですね。(伝統工芸を学んでみて?)そのために来ました。めちゃくちゃ楽しいです」


初回の授業を終えてー

職人歴60年・宮原正岳さん:
「今年の生徒さんも非常に意欲的で上手にうまく早くやったんじゃないかな。きっと仕上がりもいいと思うよ」

塗りが終わったら温度と湿度が管理された「室」で乾かします。


■完成品は?評価は?

10日後ー

あれから塗り重ねると5回。先日、完成品の講評会が開かれました。

土屋美稀さん作「小皿と木彫りのクマ」

アズース・エランさん作「カエデのシェルフ」


作品の説明と授業の感想を発表。

訓練生最年長・宮田正彦さん(65):
「これが今回メインで塗りましたプレートで、この上でご飯を食べようと思っています。鉋が下手なので、自動鉋をやってペーパー(やすり)でごまかしたら、仕上げ鉋をしていないと、むらが出るなと勉強になりました」


全ての作品を見た北原さん。完成度が高いと評価した後、漆塗りの「奥深さ」も伝えました。

職人歴38年・北原進さん:
「拭き漆は木を見せる仕事。木の材料や木目を生かす仕事という言い方もできるし、言い方を変えればやった仕事が見えてしまう。面白いところでもあり、難しいところ」


■伝統を受け継ぐ次世代に期待

後継者不足に悩む木曽漆器。北原さんたちは伝統を受け継ぐ次世代に期待しています。

職人歴38年・北原進さん:
「もし今回の生徒で1人でも漆の魅力を感じて、漆を自分がやる仕事に取り入れて、選択肢の1つに入れて、1人でも多く漆の良さを伝えていってくれる人が出てきたらいいなと」

技専の授業はあと半年。訓練生はこれから1年間の総まとめとなる3月の展示・販売会「技能祭」に向けて個人製作に打ち込みます。

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