映画「ラスト・サムライ」の記者会見で(左から2人目)=2003年11月20日、東京都港区


2004年9月21日付の産経新聞に掲載した連載「話の肖像画」のアーカイブ記事です。肩書、年齢、名称などは掲載当時のまま。

《ハリウッド映画『ラスト・サムライ』(エドワード・ズウィック監督)では攘夷派の古いタイプの武士、氏尾役を演じた。脇役ではあったが、ストイックな色気と迫真の殺陣(タテ)は主役のトム・クルーズを食いかねない存在感を発揮。主役二人(トムと渡辺謙)以上に、映画のメーンテーマ「失われゆく武士道」のイメージを世界に強く印象づけた》

──『ラスト・サムライ』の氏尾役はしびれました。出演はどういう経緯で決まったんですか?

真田 『ラスト・サムライ』のオファーは『たそがれ清兵衛』(平成十四年、山田洋次監督)の撮影前でした。氏尾は日本の古いタイプの、現代は失われつつある男像。これは絶対に中国の俳優さんとか日系二世の方には演じてほしくないという思いがありましたね。作品がエンターテインメントであっても、過去にあったような偏見と誤解に満ちた日本人像には描いてほしくはない。飛び込んで、戦って、日本人が見て恥ずかしくない日本人が描かれた初のハリウッド映画が作れないかな、という気持ちで引き受けました。

──日本文化を背負って戦う気持ちでハリウッドに乗り込んだ。

真田 役の大小は関係ありません。オリンピックじゃないですけど参加し、死力を尽くしてどこまでやれるかという気持ちです。欧米好みの日本人を演じさせられるのではないかという不安もありましたが、そうなったら降ろされてもいい。一方で、(欧米人の妄想のままの日本人像を演じるような)恥ずかしいことをしたら日本には帰れないぞ、という覚悟で戦っていました。

──トム・クルーズとの殺陣はすごい迫力でした。剣術、空手、日本舞踊などの知識と技量があり、時代劇の経験豊富な真田さんだからこその完成度。

真田 氏尾は剣術を教えるイコール、武士道精神をたたき込むという象徴的な役。これをしっかりしないと映画全体がお粗末になるし、日本の恥だと思っていました。ズウィック監督が日本にロケ地を探しにきたとき、殺陣や日本文化について話し合いました。

でも、ハリウッドの殺陣師は日本人じゃないんで、まったく日本人らしくない動きをつけることもあるんですよ。ちょっとのところでウエスタン(西部劇)になったり香港カンフーになったり。間合いもリズムも足運びも全部違うので、それに全部自分で直しをいれました。彼(殺陣師)もプライドがあるんで、最初は抵抗しましたけどね。

トムもとても剣術が上達したんですよ。吸収が早いし、かなり努力家です、彼は。毎日ハードな撮影が終わったあと、一、二時間スタントマンとけいこしていました。

──自分の出番以外もスタッフのように立ち会っていたそうですね。

真田 美術、衣装、小道具の置き方からエキストラの動き方まで、何が日本的で何が中国的か、彼らにその区別はわからないんですよ。最低限、日本人の観客に笑われないようにしないと。

──そのかいあって、ハリウッド映画で最も日本を尊重している作品、という評価も寄せられました。『ラスト・サムライ』公開後、新渡戸稲造の『武士道』(BUSHIDO)が米国で飛ぶように売れたそうですよ。

真田 ハリウッドはアジアに目が向いています。門戸は開かれているんですね。日本の方が欧米やハリウッドに対して壁をつくって、文化的鎖国に陥っているような気がする。そういう日本の鎖国的状況に突破口を開いたという意味でも、リスクを背負ってこの映画に思い切って飛び込んだ意義はありますね。

(福島香織)

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