イラスト・ヨツモトユキ

世の中に、ついていけなくなってきた。この頃は、パソコンで複雑な制度などについて調べていると、最後は、おおむね「AI(人工知能)に聞きましょう」と提案される。けれど、その「AI」がよく分からない。私は切実に思う。「AI」ではなく「人の生の声で、教えて!」と。けれど、そうしてくれる人は、もういない。

以前の私は、新しくなにかが登場してくる度に、講座に通うなどして頑張って学んできた。でも、それも限界になった。そもそも、自分と同じ世代の人は、とっくに定年を過ぎ、リタイアしている。私も、仕事をリタイアしさえすれば、やっていけるのかもしれず、「AI」に聞くこともなくなるはずだ。でも、そうなれば、今後のこととか、お金をどうするかとか、悩むべきことをきちんと悩まないとまずい。なんでも、あとで、あとで、と引き延ばしているうちに日が過ぎてしまっている。こうなれば、もうリタイアするしかないけれど、収入なしになったら、国民年金生活の私は、あとどのくらいの月日を暮らせるのかな、と思う。

というわけで、あまり考えたくないことが、直近のリアルなテーマとして、ついに浮上してきてしまった。

最近は「家を売却し、そのお金で近くの高齢者ホームに入居する」ことも視野に入れている。けれど、ホームへの入居と、その後の日々の暮らしにどのくらい費用がかかるのか、それに従って入居する時期を決める必要がある。

これまでは「人生は何が起こるか分からないから、あらかじめ考えても無駄」というのが私の考えだった。でも、そうもいかない、事前に準備が必要だ、ということに気が付いてしまった。

のほほんと生きてきて、人生の晩年って、思っていた以上に悩ましいものねえ、と気が付いて、いったい、私はどうするんだろうと思う。

(ノンフィクション作家 久田恵)

ひさだ・めぐみ 

昭和22年、北海道室蘭市生まれ。平成2年、『フィリッピーナを愛した男たち』で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。介護、子育てなど経験に根ざしたルポに定評がある。著書に『ここが終の住処かもね』『主婦悦子さんの予期せぬ日々』など。

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