A.T. カーニーとWeb3のスタートアップで正社員として働いている松岡洋平さん
大手コンサルティング会社のA.T. カーニーでは、「強い個」「経営を語れる個」「尖った個」の育成に力を注いでいるといいます。それらの素質を養うために役立つ本を、同社スペシャリスト プリンシパルの松岡洋平さんに挙げてもらいました。「強い個」になるために役立つ『超・箇条書き』(杉野幹人著)『仕事で「一皮むける」』(金井壽宏著)の2冊を紹介します。

コンサルに必要な3つの素質

私は新卒で外資系コンサルティング会社に就職し、ライフネット生命保険、スマートニュース(東京・渋谷)といったメガスタートアップやRIZAPグループ、LINEといった大企業のさまざまな事業の立ち上げやマーケティング、デジタル庁のマイナンバーのマーケティングなどに携わってきました。金融や暗号資産、次世代インターネットWeb3なども私の得意分野であり、現在はA.T.カーニーと「Web3(ウェブスリー)」のスタートアップで正社員として働き、上場企業の社外取締役も務めています。

「外資コンサルを含む2つの会社で正社員」と言うと驚かれることがあるのですが、A.T.カーニーにはNPOの代表を務めていたり、個人的に興味のある宇宙分野のビジネスに関わっていたりする人もおり、多様な働き方が推奨されています。ただ、複数の仕事を掛け持ちするとなると激務にはなりますので、限られた時間で成果を出す専門的な高い能力が必要です。

今回はA.T.カーニーで育成に力が注がれている3つの素質、「強い個」「経営を語れる個」「尖った個」となるために役立つ本を紹介します。

まず、3つの素質について説明すると、「強い個」とは社会人として「本物」の基礎的なスキルです。例えば、議事録をきちんと取れる、クライアントとの対話で要望を引き出せる、といった「見る・聞く・調べる・考える」という基本的なことです。こうした基礎的なスキルが相当に高いと、成果の再現性も高くなります。特にコンサルティング会社は、短いときは数週間、長いときは半年以上から数年と、期間や規模がさまざまなプロジェクトに関わります。そうした中で毎回きちんと成果を出すには、高い基礎的スキルが求められるのです。

2つ目の「経営を語れる個」は、全社を見渡し、成果の再現性を俯瞰(ふかん)できる能力です。具体的には、業界や業種を超えたレベルで事業や会社全体の抽象化やパターン認識ができるかどうか。例えば、「これは自動車業界で起きている問題だが、構造的には金融業界と同じ。最初からユーザーが100万人規模でいるから成り立つビジネスモデルだ」というように見抜けるからこそ、クライアントにアドバイスができます。クライアントは自身の業界や領域に精通していますから、あえてその業界や領域ではない分野から使える知識を峻別(しゅんべつ)し、取り入れる。このような「経営を語れる個」も重要なスキルです。

そして、3つ目の「尖った個」ですが、実は「優秀なコンサルタントの答えはみんな同じ」とよくいわれます。コンサルは共通の物差しを持っているのである意味仕方がないのですが、やはりビジネスの場においてそれでは困る。独自性を出し、差異化することが重要です。そのためには、「人が見ていないものを見る」「自分しか持っていない1次情報がある」「ビジネス・テクノロジー・クリエイティブを横断的に理解できる」ことなどが必要です。

「たかが箇条書き」と侮るなかれ

まず、「強い個」となるために役立つ本を紹介します。1冊目が『超・箇条書き 「10倍速く、魅力的に」伝える技術』(杉野幹人著/ダイヤモンド社)です。著者の杉野さんはNTTドコモに就職後、A.T. カーニーのマネージャー、東京農工大学特任教授などを務めた人物。シリコンバレーで共に仕事をした起業家たちのプレゼン資料から「箇条書き」の力に気づき、この本を書きました。私は昔から本書を愛読していたのですが、ChatGPT(チャットGPT)が登場してから改めて評価しています。

『超・箇条書き』(杉野幹人著)

箇条書きとは何かというと、つまるところ「言語」だと思います。日本語や英語などどんな言語でも、長い文章を外国語で伝えようとするとすごく大変ですよね。それでも伝えなければならない場合、箇条書きにして翻訳するのが確実です。言葉の壁を超え、誤解されず、言いたいことを簡潔に伝えるには箇条書きのスキルが求められます。

今はChatGPTの登場でAI(人工知能)とも対話できますが、プロンプト(指示)が的確でないと的外れな回答が返ってきます。しかし、正しい情報をChatGPTなどのAIに伝えようとすると、膨大な文字数になることも。例えば「自社の状況」をChatGPTに説明しようとすると1000文字以上になるかもしれませんが、プロンプトが長文になればその分のコストもかかります。つまり、AIから最小限の情報で最大限の成果を引き出そうとすると、箇条書きのスキルが重要となるのです。

箇条書きは人とのコミュニケーションでも有効です。例えば、コンサルはクライアントに対して多種多様な資料を用意しますが、「この資料で言いたいことは3つです」などと最初に箇条書きでまとめることがよくあります。クライアントとコミュニケーションを取る際、情報の粒度と密度を極限まで高めていくと必然的に箇条書きになるのです。

また、誰しも一度は社内で上司から、「何が言いたいのか分からない」「要点を整理してほしい」と言われた経験があるのではないでしょうか。このときに必要となるのも箇条書きですね。箇条書きができれば、仕事の精度もスピードも上がります。メールも要点だけ箇条書きにすれば、すぐに返信できます。

あらゆる情報があふれている現代において、インプットとアウトプットの精度を極限まで高めていくのが箇条書きであり、習慣化できると仕事を進めるうえで大きなアドバンテージになります。

本書では「1行ですべてを伝えるプロのテクニック」が公開されています。たかが箇条書きと侮ることなく、今日からビジネスに取り入れてみてください。

「仕事で一皮むける」と強くなる

2冊目は『仕事で「一皮むける」 関経連「一皮むけた経験」に学ぶ』(金井壽宏著/光文社新書)です。よく人を成長させるのは「一皮むけた」経験だといわれますよね。果たしてそれは本当なのか、神戸大学教授(当時)の金井さんが関西経済連合会に所属する企業の経営幹部に調査し、まとめたのが本書です。

『仕事で「一皮むける」』(金井壽宏著)

ヒアリングをすると、やはり多くの人が昇進や異動、留学など、さまざまな一皮むけた経験をしていました。そして、自分からチャレンジしたのではなく、突然、予期せぬ状況に置かれたケースのほうが成長度合いは大きい。

本書に掲載された体験談は、必ずしも「すごく大変な状況だったが、頑張って結果を出した」といったハッピーエンドばかりではないのですが、大事なのは「その経験を内省できるかどうか」です。修羅場を経験し、内省していれば腹が据わり、その後に「あのときよりはうまくやれる」と大胆なチャレンジができます。例えば、予算1億円の案件を担当したことのない人が、10億円、100億円の案件に挑戦できるかというと、怖くてできないでしょう。でも、1億円の案件を担当したことがある人なら、たとえそのときに失敗していたとしても、次に大きな挑戦がしやすくなります。

「仕事ができるビジネスパーソンになるにはラーニングスピードが勝負」と話す松岡さん

もし自分が一皮むける経験をしていなかったとしても、この本を読むことで間接体験ができます。コンサルに限らず、仕事ができるビジネスパーソンになるにはラーニングスピードが勝負。それには人とのやり取りや経験から効率よく学ぶことが欠かせませんが、若いうちに「修羅場から学ぶほうが収穫が大きい」と実感した人は早くから挑戦を繰り返し、学びのループに入れます。そのため、若い人ほどこの本を読んでほしいと思います。

『超・箇条書き』が仕事のスキルだとしたら、『仕事で一皮むける』は仕事とキャリアへの姿勢を説いた本です。ぜひ、2冊合わせて読んでみてください。

超・箇条書き―――「10倍速く、魅力的に」伝える技術
  • 著者 : 杉野 幹人
  • 出版 : ダイヤモンド社
  • 価格 : 1,540円(税込み)

この書籍を購入する(ヘルプ): Amazon楽天ブックス

仕事で「一皮むける」~関経連「一皮むけた経験」に学ぶ~ (光文社新書)
  • 著者 : 金井 壽宏
  • 出版 : 光文社
  • 価格 : 726円(税込み)

この書籍を購入する(ヘルプ): Amazon

松岡洋平
A.T. カーニー スペシャリスト プリンシパル。高知県出身。京都大学教育学部卒。米系コンサルティングファームを経てライフネット生命立ち上げに参画、米アパレルDickies日本法人副社長を経てスマートニュース、RIZAPグループ、LINE、デジタル庁などを経て現職。Web3スタートアップGaudiyでも正社員として勤め、上場企業の社外取締役も務める。NPO理事長経験を持ち、現在はボーイスカウトのリーダーとしても活動中。日米学生会議OB(53/54)。

(取材・文: 三浦香代子、撮影: 品田裕美)

[日経BOOKプラス2024年9月2日付記事を再構成]

最新記事、新刊、イベント情報をSNSやメールでお届けします
日経BOOKプラスの最新記事や「日経の本」の新刊、話題の本、著者イベントの予定など、ビジネスパーソンに役立つ情報をSNSやメールでお届けします。
https://bookplus.nikkei.com/atcl/info/mailsns/

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。