90歳を過ぎても自ら店頭に立ち、日本人に合うドレスを見繕った。「やっぱりお客さんがここで写真を撮って喜んだり、『結婚式を褒められました』と報告してくれたりするのが一番ハッピーですね」。4月26日に亡くなったウエディングドレスデザイナーの桂由美さんは晩年、目を細めながら、そう仕事のやりがいを語っていた。
逓信省(現・総務省)官吏の父と、洋裁学校を営む母の間に生まれた。幼少時からおとぎ話の絵本を好み、中高時代は敗戦で荒廃した現実から目を背けるように演劇に熱中した。
着物での神前結婚式が97%を占めていた1960年代、日本初のブライダル専門店を開業した理由について、「日本人は戦争には負けたかもしれないけれど優秀なんだ、という大和魂が植え付けられていたんです。日本人として頑張ろうと考えた時に、ブライダルが見てて恥ずかしいくらい悲惨だった」と振り返った。自国への愛着と誇りは強く、西洋のドレスデザインに、西陣織や友禅染など日本の伝統技法も取り入れた。
取材で店を訪れると、いつもロココ調の淡いピンク色のソファに腰掛け、ほほ笑みを絶やさず対応してくれた。「流行は2年で変わる」と語り、自身は好きな色を作らないようにしていた。常にきれいに整えた手先のネイルも、サクラやフジなど季節の花々の色に合わせて年中変えていた。
徹底してエレガンスを追求し、優美なドレスで女性の美しさを引き立てた。92歳の時、自身の人生をこう述懐していた。「戦争を経験しているので、あまり自分のためにぜいたくがしたいとは思わないんです。それよりきれいなものを作って、人を幸せにしたい。そのために生きてきたような気がします」【伊藤遥】
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