雄町の酒が抜群に美味しい。品よくふわり…艶やかさを秘めた美人像をつい思い描いてしまう

昨年にひきつづき、今年も3月初旬に岡山市内で開催された「おかやま文学フェスティバル」に参加した。旧内山下(うちさんげ)小学校のレトロな校舎内に全国各地の出版社や書店が集結する2日間のイベントで、湖北の出版元・能美舎(のうびしゃ)と共に出店し、私も自著を手売りさせてもらった。

岡山という立地柄、瀬戸内や四国の出展者が多く、滋賀から来たというだけで反応良く、こちらも湖国の宣伝に熱が入った。

私も、自著の「蔵さんぽ」の文言を見て足を止められた方々と案の定、呑んべえ談義に花を咲かせた。なかにはおすすめの地酒を差し入れとして届けてくださった方もいて、そうか、岡山も酒呑み大国だったのか!と思うほど、滞在中に地酒蔵や酒処などの情報を多く寄せて頂いた。

夜は街へと繰り出して、お気に入りの酒処「成田家 栄町店」へと足を運んだ。三升の紋が入った暖簾(のれん)に、昭和レトロな佇まい。大将の心意気と酒肴に惚れて、1年ぶりの再訪である。

夕刻、すでにカウンターは埋まっていた。名物「湯豆腐」と「鳥酢」を頼み、日本酒はおまかせで注文する。休日は酒蔵で蔵人として働いているという店主の息子さんが、岡山の地酒をいくつか見繕ってくれた。

はじめに倉敷市の地酒「多賀治(たかじ)」のフレッシュな無濾過(ろか)生原酒。しっかりとした米の旨味、やわらかな口あたりで、関西でもあまり見かけない貴重な一杯である。

次に、同市の地酒「三冠」。これもまた旨味のバランスと余韻が心地よく、品よくすっきりとした味わいで飲み飽きない。

つづけて燗酒には、新見市から三光正宗の「神代(こうじろ)」。純米の旨味とキレのある味わいがやわらかく沁み渡っていった。

あれこれ飲み比べてみると、やはりここは、岡山が誇る酒造好適米〝雄町(おまち)〟の国である。どれも雄町の酒が抜群に美味しい。

遡れば江戸時代、備前に生まれ、栽培が難しいことから一時期は生産が減り、幻の米とも呼ばれたが、近年再び脚光を浴び、蔵元や飲み手に深く愛される人気の酒米品種である。品よくふわりとした香り、ふくよかな旨味にどこか艶やかさを秘めている。そんな美人像をつい思い描いてしまう。

そして杯は尽きることなく…。おぼろげな記憶と共に、岡山の夜はふけていった。

私たちのお花見の季節は、まだ始まったばかりなのである。

松浦すみれさん

まつうら・すみれ ルポ&イラストレーター。昭和58年京都生まれ。京都の〝お酒の神様〟をまつる神社で巫女として奉職した経験から日本酒の魅力にはまる。著書に「日本酒ガールの関西ほろ酔い蔵さんぽ」(コトコト刊)。移住先の滋賀と京都を行き来しながら活動している。

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