根津神社内に森鴎外旧居が移築される予定で、整備工事が進められている=4月、文京区根津(黒田悠希撮影)

閉館した台東区のホテルに保存されていた文豪・森鴎外の旧居が根津神社(文京区)に移築される。氏子だった「縁」などから、神社側が検討を重ね、神社の施設の一つとして〝再生〟させる道を選んだという。完成は来年4月を見込む。「大切な文化的財産を後世に残したい」。神社側は移築への思いを、こう説明している。

「舞姫」執筆の場

神社の境内をのぞくと最近では、散歩する近隣住民に交じり、おみくじを引く外国人観光客の姿も多くみられるようになっている。鴎外の旧居は、楼門東側のエリアに移築される。

最初の妻、赤松登志子と結婚した鴎外が明治22年から翌23年まで暮らしていたのが、移築予定の旧居だ。赤松家の持ち家で、鴎外は、ここで「舞姫」や「うたかたの記」を執筆していたとされる。

「水月ホテル鷗外荘」(台東区池之端)の敷地内に長らく保存・活用されていたが、令和2年にホテルが閉館。ホテルから移築の声を掛けられたという。

そして移築計画が始動。根津神社は打診から1年ほどかけて検討を重ね、神社の施設として活用する道を選択し、一昨年に整地が始まった。

旧居、時代に合わせ進化

水月ホテル鷗外荘に保存されていた森鴎外旧居(根津神社提供)

移築の対象は、3つの広間や縁側。根津神社総務部長の内海明子さんは「できる限り明治の建物の良さを残して再生する」と話す。

柱やはりなどは可能な限り活用。外からは見えない部分や畳などは新しいものを使うという。根津神社は本殿や楼門など7棟が国の重要文化財に指定され、戦禍や震災から建物を守ってきた経験がある。鴎外の旧居は、それらとは違い、保存や再生の考え方を変える必要があったという。

文化財の保存で行ってきたことは、基本的に変更を加えず「そのままの姿で残すこと」だったが、移築する旧居は、新築として国の建築基準を満たさなければならない。ホテルでも施設として改良され、電灯やエアコンも付いていた。

内海さんは「鴎外が住んでいた時や、ホテル時代のままではないことを残念に思う方もいるかもしれないが、面影を残しながら時代に合わせ進化していくことも、また、価値のあることだと感じた」と語る。

整地や建築費高騰で苦戦

移築後の完成予想図(根津神社提供)

想定外の「壁」も立ちはだかった。

移築のために、敷地内の林を切り開いたが、かつて引き取った都電の敷石などが大量に出てきた。既存の池の整備にも手間がかかった。

さらに、建築資材の高騰も重なり、移築の総費用は3億円台から5億8千万円(見積額)に膨らんだ。神社側は、周辺造園工事のため、第2弾のクラウドファンディングを先月から開始した(期限は5月15日午後11時)。

内海さんは「神社の施設として100年、200年先まで残すことを意識している」と話し、協力を呼びかけている。クラウドファンディングの詳細は(https://readyfor.jp/projects/nedujinja02)。(黒田悠希)

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