二日酔いを防ぐ確実な方法はほとんどない。水分補給を心がけることは予防に役立つかもしれない。酒と水を交互に飲むことも、アルコールの消費を遅くするのに役立つ。(PHOTOGRAPH BY ERIC HELGAS, THE NEW YORK TIMES/REDUX)

1月を「ドライ・ジャニュアリー」として断酒して過ごした後、2月になって少しずつ飲み始め、そろそろ本格的な飲酒生活に戻ったものの、二日酔いになると不安に襲われる人はいないだろうか。飲んだ翌日の不安という現象はかなり一般的に見られ、ソーシャルメディアでは二日酔い(hangover)と不安(anxiety)を組み合わせた「#hangxiety(ハングザイエティ)」というハッシュタグも存在するほどだ。

飲酒した翌日には頭痛、吐き気、光過敏、疲労感などさまざまな症状が現れるが、中でも不安という要素は軽視されやすい傾向にある。

「どんな酒であれ、飲んだ人の大半は、アルコールが抜ける際、脳に変調をきたします。少量の飲酒であれば混乱を覚える程度ですが、量が多い場合は不安が起こることがあります」と、英インペリアル・カレッジ・ロンドンの神経精神薬理学者デビッド・ナット氏は言う。

米ペンシルベニア大学精神科依存症治療センター長のエドウィン・キム氏によると、飲酒後の不安は、過剰な心配というよりもイラつきとして感じられる人もいる。また、二日酔いのその他の症状と一緒に起こることもあれば、単独で起こることもあるという。「普段は不安を感じない人や、正式に不安症の診断を受けていない人にも、こうしたことは起こり得ます」

飲酒が不安をもたらす脳内の仕組み

飲酒後の不安は、そもそも多くの人が酒を飲む理由、つまり社会的な不安を鎮めることと関係しているとナット氏は言う。

アルコールは、「ガンマアミノ酪酸(GABA)」と呼ばれる神経伝達物質の働きに干渉する。GABAは中枢神経系の鎮静や、睡眠、リラクセーションに重要な役割を果たす物質だ。アルコールは、普段はGABAが結合する脳内のタンパク質(受容体)と結びつくことによって、GABAと似た効果を引き起こす。

「これが、飲酒をしたときに人々がリラックスしたり、抑制から解放されたり、とめどなく湧いてくる(ネガティブな)思考が減ったりする理由です」と、米エール大学医学部教授で、エール・ニューヘイブン病院依存症回復クリニック所長のスティーブン・ホルト氏は言う。飲酒で体のコントロールが失われるのも同じ理由からだ。

しかし、アルコールによってGABAの作用が強められるにつれ、体内で自然に作られるGABAの量は減り始める。「GABAが作られる量が通常のレベルに戻る前にアルコールが抜けると、以前に抱いていた不安が、時には強度を増して蘇ります」とナット氏は言う。「そうなると、たとえ社交的な場にいなくても不安を覚える場合があります」

また、「グルタミン酸」という興奮性の神経伝達物質も、不安を高める働きを持つ。アルコールによって抑制性のGABAの作用が強められると、脳内のグルタミン酸による神経伝達の影響が弱まる。これを埋め合わせるために、脳は追加でグルタミン酸受容体を徐々に増やすようになる。

すると、飲酒を終えて体内のアルコールが減ったときに、増えすぎたグルタミン酸のシグナルが、一時的にエネルギーや不安が高まった状態を生み出す。

間接的な影響も

このほかにも、いくつかの生物学的プロセスが、飲酒後の不安を間接的に引き起こしている可能性がある。

そのうちのひとつは、体からアルコールを取り除く2段階のプロセスだ。アルコールはまず肝臓で代謝され、アセトアルデヒドに変えられる。アセトアルデヒドは発がん物質として知られ、多くの細胞とって有毒だが、やがて酢の主成分である酢酸に変えられ、無害な状態で体外に排出される。こうした作用の大部分は肝臓内で起こるが、一部はすい臓、腸、脳内でも行われる。

「一日かけてアセトアルデヒドが排出されるにつれて、体は毒を与えられた状態から回復していきます」とホルト氏は言う。アセトアルデヒドに直接関連している症状には吐き気や疲労感があり、これによってイライラや不安が引き起こされる場合もある。

アルコールはまた、睡眠の質を低下させる。ホルト氏によると、睡眠を促すGABAにアルコールの作用が加わることによって、自然な睡眠サイクルが乱され、夜中に落ち着かない感覚を覚えることがあるという。よく眠れないと、人は翌日に怒りっぽい、あるいはピリピリと張り詰めた気分を覚えることがある。

さらに、アルコールは血糖値を下げるため、それが体にストレスを与えて不安を引き起こすことがあるとキム氏は言う。氏はまた、腸内細菌叢(そう)という要素もあると指摘する。アルコールは腸を刺激し、そこに生息する微生物を変化させることが知られているからだ。

アルコールを毎日またはほぼ毎日飲み、翌日に不安を感じる人では、また別の要因が関与しているかもしれない。特に体の震えを伴う場合には、アルコールの離脱症状に見舞われている可能性がある。「午前中の遅い時間から昼頃になると、彼らは何かが足りないという感覚を覚えます。何かというのは、つまりアルコールのことです」とホルト氏は言う。「そして、このとめどない思考を落ち着かせるためには酒を飲む必要があると、彼らは考えるのです」

また、二日酔いの症状として不安が現れる人は、慢性的に不安が続く「全般性不安障害」を抱えている可能性がある。症状を軽くしようとして自己判断で飲酒すると、不安は覆い隠されるものの、アルコールが体から抜けると根底にある不安が現れるのだ。

二日酔いの民間療法はほぼ効かない

不安を含む二日酔いの症状には、ピクルスの汁やチキンスープを飲むなど、数多くの民間療法があるが、研究によって効果が確かめられたものはひとつもない。唯一、飲酒の最中や後に水を飲むのは、血中のアセトアルデヒド濃度を薄めるため、多少は効果があるかもしれない。

確実に効果のない民間療法は、寝る前に解熱鎮痛薬のアセトアミノフェンを飲むというものだ。アルコールをアセトアルデヒドに変える働きに関わっている肝臓内の酵素は、アセトアミノフェンの代謝にも関わっている。ベッドに入る前にアセトアミノフェンを飲むと、酵素がそちらを代謝する仕事に駆り出されてアルコールの変換が遅くなるとホルト氏は言う。

飲酒後の不安を防ぐ最善策は、言うまでもなく、飲酒を一般に推奨される量に抑えることだ。例えば米政府は、男性は1日2杯以下、女性は1杯以下を推奨している。

ノンアルコール飲料の種類が増えたことにより、社交的な場であっても、酒を飲む量を控える、さらにはまったく飲まない選択肢も受け入れられるようになってきた。アルコールをまったく、あるいはほとんど含まないワインやビールのほか、アルコールに似た口当たりや風味を生むさまざまな材料から作られたカクテルが登場している。

結婚式などの特別な日には、多くの人が飲みすぎてしまうものだが、定期的に飲酒後の不安を経験している人は、アルコールを控えるべき兆候だと受け止めたほうがいいかもしれない。「アルコールのような物質を体内に入れないようにすれば、その分だけ、飲酒の結果に苦しめられる可能性は低くなるのですから」とキム氏は言う。

文=Meryl Davids Landau/訳=北村京子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2024年3月24日公開)

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