全国の自治体における約4割の事務手続きで、マイナンバーによる情報照会が活用されていないことが15日、会計検査院の調査で分かった。業務手順の見直しやマニュアル作成が進まないことが背景にある。行政窓口では紙中心の意識も残る。検査院はデジタル庁が主導し、行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)を後押しする必要性を指摘した。

マイナンバーは国民一人ひとりに割り当てられた12桁の番号。国や地方自治体に分散している社会保障や税、災害対策に関する個人の情報をそれぞれの機関が把握しやすくすることで、住民が行政窓口で提出する紙の書類や事務処理の手間を減らせるメリットがある。

マイナンバー情報照会制度は2017年11月から本格運用を開始。自治体などは「情報提供ネットワークシステム(情報提供NWS)」を通じて各機関や他の自治体にある個人情報を確認できる。

例えば児童扶養手当や介護給付費の支給といった手続きで、住民は課税証明書を提出する必要がなくなり、発行手数料の負担も軽減できる。自治体側も業務効率が上がる。

検査院は全国の県や市町村における22年度のマイナンバー情報照会の実施状況を調査した。社会保障や税、災害分野から1258の手続きを対象に選定。手続きの約4割で、事務処理時のマイナンバー情報照会がゼロだった。照会している自治体が全体の1割未満にとどまる手続きが9割を占め、活用が途上の実態が浮き彫りになった。

特定医療費の支給の認定手続きは、都道府県などがマイナンバーを活用して情報照会すると、住民は住民票の写しを提出しなくて済む。検査院が451自治体を対象に調査したところ、22年度に計約19万件の事務処理が発生していたが、マイナンバー情報が活用されたのは全体の16%だった。

新潟県では22年度、特定医療費の支給認定にあたり、地方税関係の情報を確認する作業が約1万3700件発生。全件でマイナンバー情報照会を活用せず、患者から提出された課税証明書で確認していた。

国は「全て情報連携を活用して事務処理することが基本」としているが、現場では対応や意識が追いついていない。利用しない理由を自治体に尋ねたところ「業務フローの見直しやマニュアル作成が未了」というケースが多かった。

市町村では未活用の理由について「添付書類の提出の方が効率的」との回答が目立ち、紙中心の意識から抜けきれない状況も浮かぶ。

自治体側の理由だけではなく、国やその他の機関のDXの遅れが原因となったケースもある。

住民が離職などで国民健康保険に加入する場合、自治体は以前加入していた医療保険の資格状況を確認する必要がある。マイナンバー情報照会で可能な作業だが、最新の情報を得られないことが利用を避ける原因になっていた。健康保険組合などによるサーバーへの登録作業に時間がかかることが背景にあり、所管する厚生労働省も登録状況の課題を把握していなかったという。

検査院はDXの旗振り役であるデジタル庁に対し、マイナンバー情報照会の活用推進を主導することを求めた。手続きを所管する省庁も活用状況を把握できるようにし、利用が進まない事務処理については自治体に助言したり、問題解決の方策を検討することを求めた。

マイナンバーは公平な税負担や社会保障につなげるため、政府が国民の所得や資産を正確に把握しやすくする狙いで導入されたが、個人情報の集約に懸念の声もあった。行政での活用が進まなければ、国民の利便性向上につながらず、マイナンバー施策推進の目的や意義について理解を得るのは難しくなる。

国はシステム整備や運用に14年度から9年間で749億円を投じ、自治体への補助金交付額も1400億円に上る。

マイナンバー誤登録や偽造も問題に

マイナンバー制度を巡っては近年、人為的な作業ミスや偽造が問題になるなどによるトラブルが目立つ。

河野太郎デジタル相は今月、偽造マイナンバーカードを身分証として使い、スマートフォンなどをだまし取る事件が相次いでいるとして、事業者らに注意を呼びかけた。

2023年には健康保険証や公的給付金の受取口座などの情報を誤って他人のマイナンバーにひも付けた問題が発覚。他人の情報を閲覧できたり、コンビニエンスストアでの証明書発行サービスで誤った交付が発生したりした。

地方自治体など各行政機関が手作業で個人情報とマイナンバーをひも付けする過程で、入力ミスが生じたケースが多い。政府は23年6月、「マイナンバー情報総点検本部」を設置。総点検で判明した誤登録は全体の0.01%にとどまったが、登録の自動化など再発防止策を急いでいる。

今秋には現行の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体にしたマイナ保険証への移行も予定される。マイナンバーカードの保有率は人口の7割超に高まる一方、マイナ保険証の利用率は数%で低迷している。制度への理解促進が欠かせない。

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