実際に依頼があった故人の海洋葬が実施された=福岡市内で2024年5月2日午後1時47分、日向米華撮影
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 海に遺骨をまく「海洋散骨」について知ってもらおうと、福岡市で、寺院の住職らを対象とした海洋散骨体験クルーズが開かれた。県内外の住職ら約10人が参加し、時代の変化とともに多様化する故人の弔い方への理解を深めた。

 体験クルーズは、お墓の改葬や粉骨などのサービスを提供する有限会社「縁」(鹿児島県南九州市)が開催。参加者は姪浜旅客待合所(福岡市西区)から乗船し、実際に依頼のあった3件(5人分)の委託海洋葬を見学した。散骨や献花、黙とうなどの一連の流れを学んだ後、遺骨に見立てた小麦粉が入った袋を海にまく模擬散骨も体験した。

 初めて参加したという光薫寺(同市博多区)の小林信翠住職は「供養を中心に取り組んでいることは好感が持て、世界観が広がった。亡くなった人とつながることが一番大事で、そのつながり方はいろいろあっていいと思う」と充実した表情を見せた。

海洋散骨を体験する参加者=福岡市内で2024年5月2日午後2時10分、日向米華撮影
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 同社での海洋散骨は2017年は24件だったが、23年は130件と約5倍に増加している。同社社長の堤裕加里さんによると、樹木葬や海洋葬などの選択肢が増えたことに加え、墓の維持・管理ができずに「墓じまい」する人が散骨を希望するケースが増えているという。地域住民らに近い存在でもある寺院でも、海洋散骨など新しい供養の形に対する理解が乏しいのではないかと、住職らを対象に実施。遺骨に関して「相談相手が分からない」といった声もあり、お寺をハブ(結節点)とした体制の構築も目指す。堤さんは「供養の選択肢の一つをかなえるための粉骨・散骨。お客様が身近に感じられるような供養の形にしたい」と語った。

 同社では、粉骨やお墓の整理、手元供養などが依頼できる他、遺骨の一部を寺に納骨し、残りの遺骨を散骨するサービス「teraumi」も23年12月から開始している。船を貸し切る「チャーター海洋葬」は10万7800円(基本料金)▽複数の家族と乗り合わせる「合同海洋葬」は8万2500円(同)、同社スタッフが代理で散骨する「委託海洋葬」は3万8500円。粉骨や写真撮影などのオプション、事務手数料で支払総額が決まる。問い合わせ先は同社本社(0993・78・4650)。

改葬10年間で2倍

 厚生労働省の「衛生行政報告例」(2022年度)によると、「墓じまい」を含む改葬件数は年間15万1076件。12年度は7万9749件で、この10年間で約2倍増えた。

一部地域では禁止

国内では遺骨を砕いて埋めたりまいたりすることが刑法に違反しないかという議論があったが、法務省は1991年に「葬送のために節度をもって行われる限り、遺骨遺棄罪(刑法190条)に違反しない」との見解を示した。一方、厚生労働省は墓地埋葬法(48年制定)に散骨の規定はなく、墓地・埋葬に関する法律は関知しないという見解で、現在に至っている。

 海洋散骨は、一部地域の条例では禁止されている。日本海洋散骨協会のガイドラインでは、遺骨と分からない程度(1~2ミリ)に粉末化する▽陸地から1カイリ(約1・8キロ)以上離れた海洋上のみで散骨する――ことなどを義務づけている。【日向米華】

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