4月に行われた衆議院東京15区の補欠選挙で、他の候補者に対して妨害行為を行ったとして「つばさの党」代表の黒川敦彦容疑者ら3人が逮捕された事件。黒川容疑者らはなぜ過激な行為に走ったのか、Mr.サンデーはその“原点”を徹底追跡。見えてきたのは、ネット社会が生み出す“いびつな現実”だった。
過激な言動繰り返した黒川容疑者ら
「おはようございまーす!」
19日朝、カメラの前に現れた途端はしゃぐような姿を見せたのは、つばさの党代表の黒川敦彦容疑者(45)。
公職選挙法の自由妨害の疑いで逮捕された黒川容疑者、幹事長の根本良輔容疑者(29)、運動員の杉田勇人容疑者(39)の3人が、19日に送検された。
その約3時間後には首相官邸前で、北海道や愛知から駆け付けたというつばさの党の支持者15人ほどが街宣活動が行っていた。支持者は「(黒川容疑者らが)やった事は多少悪いです。でも、いろんな献金をもらっているだの、そういう人たちは、のほほんと、ぬくぬくと過ごしているわけですよ」と訴えた。
19日に新たにわかったのは、都内にある根本良輔容疑者の自宅では支援者十数人が集団生活し、動画の配信や車の運転など役割を分担、犯行に関与した疑いがあるという。
根本容疑者:
おい売国奴。お前中国の言いなりだろ。中国の犬だよな。なー。
中学生:
公の場で大声出すなよ。大人として恥ずかしくないのかよ。
沿道の人:
子どもが正しいよ、本当。
(「つばさの党」YouTubeの動画)
黒川容疑者:
小池、黒川だよー!小池ー!おれ、都知事選挙も出るからね!
他の候補者を挑発するような過激な言動を繰り返した黒川容疑者らだが、過去の映像を見ると、そこにはまるで別人の黒川容疑者がいた。
(2019年の映像)
黒川容疑者:
私として一番やりたいのは、本当に社会のために頑張ってくれる人のためにお金が回るシステムをつくりたい。
黒川容疑者:
17日間お世話になりました。引き続きよろしくお願いいたします。本当にありがとうございました。
(2022年の映像)
黒川容疑者:
仙台の皆さま、大変大きな声でお騒がせしております。遠くからお手をお振りいただきましてありがとうございます!
黒川容疑者の変貌の裏に何があったのか。黒川容疑者が過去に出馬した5回の選挙戦を中心に映像を紐解くと、ある転機が見えてきた。
“モリカケ問題”きっかけに政界進出
黒川容疑者本人のものとみられるブログには、2001年に大阪大学工学部を卒業し、数々のベンチャー企業や金融業界で働いてきたことが記されている。
黒川容疑者が突然、政界進出を目指したのは2017年。この頃、世間を揺るがせていた森友学園と加計学園の問題を争点に、安倍元総理の選挙区から出馬した。結果は大差で落選となったが、2017年から黒川容疑者を取材している「選挙ウォッチャーちだい」こと石渡智大氏は、「安倍晋三さんがやっていた政治に対して、それはおかしいんじゃないかというスタンスで立候補していた。票は全然取れなかったんですけど、応援する人は結構いた」と話す。
そして、初出馬から2年、2019年には政治団体「オリーブの木」を結成。当時は政策を打ち出し、朝から駅前に立って草の根活動も行い、その様子をネットで生配信していた。だが、映像に映る限り、そのチラシを受け取る人は見られない。
すると、撮影担当のスタッフだろうか、生配信の視聴者に向けたと思われる「N国(現NHK党)が伸びたのもYouTubeをこつこつやってきたからだと思うし。皆さんにもぜひ拡散のご協力をお願いします」という発言があった。
「NHKをぶっ壊す!」と、当時、NHK批判を合言葉としていたN国こと「NHKから国民を守る党(現NHK党)」は、賛否両論のネット戦略を展開し、知名度を上げていた。2019年の参院選では、N国が1議席を獲得した一方、黒川容疑者はまたも落選に終わった。
「NHK党」傘下で過激な活動へ…ガーシー氏出馬にも関与
(2021年1月1日配信の映像)
黒川容疑者:
富士山の麓よりお送りしております。明けましておめでとうございます。黒川敦彦でございます。
落選から2年後の2021年に行われた秋の衆院選で、黒川容疑者は旧N国の「NHK党」の傘下に入り出馬。それでも落選し、さらに翌年の町田市長選でも勝てなかった。
そして迎えた5度目の挑戦が、NHK党の比例区3位で出馬した2022年の参院選。党の幹事長を務めていた黒川容疑者は、これまでとは異質な選挙戦を経験した。
(2022年5月の映像)
黒川容疑者:
街頭演説会を行わせていただきたいと思います。
2022年5月に撮影された、選挙期間前の街頭演説。だが、主役は黒川容疑者ではなかった。
黒川容疑者:
マスメディアの闇を暴きたいという、ガーシー(東谷)氏の一連の行動に対して私たちは同じ仲間として、一緒に声を上げていきたいということでございます。
出馬していたのは「ガーシー」こと東谷義和氏。「暴露系ユーチューバー」として俳優らを常習的に脅迫するなどし、一部から熱狂的な支持を得ていた。この日は、俳優の事務所前で、海外にいるガーシー氏の音声を流した。
ガーシー氏の音声:
未成年に酒飲まして。ふざけんなオラ。無駄なことに金かけて、お前いいかげんに謝罪せぇオラ。
街頭演説で政策のアピールではなく、汚い言葉で疑惑を追及し、追い詰める。当時、注目を浴びていたガーシー氏の音声を背に、笑顔も見せていた黒川容疑者だったが、選挙の結果は、比例区1位のガーシー氏のみが当選し、黒川容疑者は5度目の落選となった。
その3カ月後のことだった。
(2022年12月の映像)
黒川容疑者:
押さないでください。押さないでください。取材するのはいいじゃないですか。「歩く自由」を阻害しないでください。なんで逃げるんですか。
西東京市議選挙で、ライバル視する参政党の候補者を追いかける黒川容疑者。この時、参政党代表の不倫疑惑を追及しながらYouTubeで生配信していた。さらに、参政党の後援会にも現れて車を追いかけ、道路の真ん中を歩く様子も記録されていた。
ガーシー氏当選の後、ライバルの疑惑やスキャンダルを執拗に追及するパフォーマンスが目立つようになったNHK党。その先頭に立っていたのが幹事長の黒川容疑者だった。
選挙ウォッチャーの石渡智大氏は、「ガーシーが暴露系YouTubeということで色々嫌われながらも多くの人の注目を集めて、結局1議席取ってしまったということで、“正論”みたいな。どうなっているんだっていう追及するみたいなことをすれば、一定数評価してくれる人がいるはず」と話す。
「つばさの党」結成…さらに過激化
(「つばさの党」YouTubeの動画)
黒川容疑者:
権利侵害をやめてもらえますか。権利侵害をやめてもらえますか。乙武さん!
そして2023年3月、NHK党と決別し「つばさの党」としての活動に集中することになった黒川容疑者は、それまでのスタイルをさらに過激化していった。
今回、黒川容疑者とともに逮捕された根本容疑者は、落選後にSNSでこう訴えていた。
根本容疑者のSNSより(先月28日投稿):
継続して目立ち続けることで必ず票につながるようになると確信しています。本丸は次の次の参議院選です。参議院比例で勝ち、国政政党になります。今回の選挙は、この目標に向けた超ファーストステップです。
元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士によると、今回の逮捕は乙武洋匡氏に対する選挙妨害容疑だが、別の候補者からも被害届が出ており、動画や証言を元に別の選挙妨害容疑で再逮捕の可能性も高いという。
一方、都知事選については、警視庁は公権力による選挙妨害と言われないように6月20日の告示までには捜査を終わらせようとしているはずで、告示前に保釈される可能性が高く、有罪が確定しなければ公民権は停止されないため都知事選には出馬可能だという。そこでも選挙妨害をする可能性が考えられるが、選挙期間中に現行犯逮捕するかどうかということがポイントになる。
(「Mr.サンデー」5月19日放送より)
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