木村隆二容疑者を巡る経過

昨年4月、岸田文雄首相の演説会場に爆発物が投げ込まれた事件では、令和4年7月の安倍晋三元首相銃撃事件に続き、自作の凶器が使われた。インターネット上に出回る製造法の情報が悪用されたとみられるが、爆発物や火薬を巡る法規制は手付かずのままだ。岸田首相襲撃事件から15日で1年。警察当局は要人警護態勢の強化を進めており、16日告示の衆院3補選は「万全の選挙警備」の試金石となる。

岸田首相の事件では木村隆二被告(25)=殺人未遂罪などで起訴=の自作とされるパイプ爆弾が、安倍氏の事件でも手製銃が使われた。いずれもネットに出回る製造法の解説動画などが「悪用された可能性が高い」(捜査関係者)という。

このため警察庁は昨年2月、有害投稿として削除要請する対象に「爆発物・銃器等の製造」を追加。同9月には人工知能(AI)を導入し、サイバーパトロールで爆発物や銃の製造・所持をそそのかす投稿や動画を自動検知できるようにした。

ただ、明確な法整備の動きは銃のみだ。安倍氏の事件を受けて銃刀法改正案が今年3月に閣議決定。銃の製造・所持を不特定多数にあおる投稿に対し、1年以下の懲役または30万円以下の罰金を科す内容で、今国会での成立が見込まれる。

爆発物や火薬の投稿も法規制が検討されるが、実現には時間を要する。規制に関わる武器等製造法や火薬類取締法は経済産業省、爆発物取締罰則は法務省の所管で、省庁を横断した調整が必要なためだ。経産省の担当者は「まだ省内で意見交換の段階」と明かす。

要人警護については、安倍氏の事件翌月、警察庁が警護の基本事項を定めた「警護要則」を改定。都道府県警の警護計画を警察庁が事前審査する方式に変更し、警護の人員も大幅拡充させた。

ところが1年もたたず岸田首相の事件が発生。警護計画が「聴衆は関係者のみ」を前提としたことなどが原因だった。主催者側との連携といった課題も浮上し、警察庁は各政党に聴衆との接触回避や金属探知機導入などの対策を働きかける。

警備関係者は「政党側も警備の必要性を理解してくれている」と話すが、今も聴衆と予定外の接触を図る政治家もいるようだ。衆院3補選では首相も応援に向かう予定で、警察OBは「警護する側、される側とも意識改革が必要」と訴える。

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