5月の連休に能登島で開催された「イルカスイム」=参加者撮影

 石川県七尾市の能登島はのとじま水族館やガラス美術館など人気の観光施設があるが、能登半島地震から5カ月がたとうとする今も休館が続き、宿泊施設も観光客の受け入れ態勢が十分に整わない。そんな中、能登島で七尾湾のイルカを船から観察するツアーが再開された。

 青空が広がる大型連休中の5月上旬。釣り船を利用したイルカツアーの船が能登島の沖合に進むと、十数頭のミナミバンドウイルカが船の周りで水面すれすれを泳いだり、ジャンプを見せたりした。乗船した観光客らは歓声を上げ、スマホで写真撮影していた。

 イルカツアーを再開したのは、能登島の民宿「山水荘」を営む石田直人さん(40)。宿は地震直後から断水が続いたが、3月末に通水し、被災地で活動する工事業者らを受け入れ始めた。観光客も受け入れているが、スタッフが辞めた影響で食事は提供できず、素泊まりでの営業が続く。

 そんな状況でもイルカツアーを再開したのは「できる事から始めることで、能登の観光業を支えたい。少しでも日常を取り戻したい」との思いからだ。野生のイルカを船から眺める「イルカウオッチング」や一緒に泳ぐ「イルカスイム」を4月に再開。5月の大型連休中は常連客を中心に、のべ50人が参加した。

中学生からの励ましのメッセージを手にする能登島観光協会の谷口和義会長2024年4月20日午後1時7分、国本ようこ撮影

 友人と訪れた金沢市の自営業、金山純子さん(62)は「能登島はイルカと泳げる貴重な場所で、約5年前から通っている。遊びに来ることで応援したい」と話した。

「またちょっこし頑張らな」

 能登島観光協会によると、島内の宿泊施設26軒のうち、一般客が泊まれるのは28日現在で約10軒にとどまる。協会の会長を務める谷口和義さん(65)が営む「能登島荘」も、床がたわんで壁がひび割れ、一般客の受け入れには大規模な修復が必要だ。他の宿泊施設も高齢の経営者が多く「島が寂れるのでやめてほしくないが、借金して修理してまでやってくれとは頼めない」と漏らす。

 そんな苦境にあって、谷口会長が励まされたのが、過去に体験学習で訪れた中学生たちからの手紙だったという。能登島の自然の中で過ごした思い出にふれながら「復興を願っています」などとつづられていた。「涙が出た。またちょっこし(ちょっと)頑張らな、と思う」と笑い、「奥能登の被害はここよりもひどい。我々が踏ん張ることで、能登の観光を支えたい」と話す。

 石田さんはイルカツアーの再開をSNSで発信しているが、例年のシーズンよりも問い合わせはまだ少ない。「観光客に『能登へ来て』と言うのは難しい状況だけど、一歩ずつやっていきたい」と前を向いた。【国本ようこ】

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