特定帰還居住区域にある田んぼでは、作業員が高さ2メートル近い雑草を刈り、重機が厚さ10センチほどの表土をはぎ取っていた=福島県大熊町下野上で2023年12月20日午前10時56分、尾崎修二撮影

 東京電力福島第1原発事故に伴う帰還困難区域で、除染を進めて避難指示の解除を目指す国の新制度「特定帰還居住区域」が、検討対象地域の1割足らずの19平方キロ程度にとどまっていることが、福島県内の自治体や国への取材で判明した。区域は事前に帰還を希望した住民の家屋周辺に限られ、所有者が利用を望む農地の一部も外れた。9日で制度の導入から1年となるが、9割強の約270平方キロは広大な山林や帰還意向のない孤立した民家などで、全域の解除に向けた道筋はついていない。

制度導入1年、9割超めど立たず

 帰還困難区域は7市町村の放射線量が高い337平方キロに上り、2011年の東日本大震災までは2万人以上が暮らしていた。政府はこのうち、人口密集地や駅周辺など6町村の計27・5平方キロを「特定復興再生拠点区域」(復興拠点)に設定。集中的に除染して22~23年に避難指示を解き、居住が再開した。

福島の特定帰還居住区域と帰還困難区域

 特定帰還居住区域は、23年6月9日施行の改正福島復興再生特別措置法で新設された。一定の範囲を無条件に除染してきた従来の手法と異なり、事前調査で帰還の意向を示した住民の自宅周辺に限って区域を定める。今年度から本格的に除染作業を進め、線量を下げて29年末までに避難指示を解除する計画だ。

 特定帰還困難区域のうち、復興拠点と、除染で発生した土を保管する「中間貯蔵施設用地」を除く約290平方キロが帰還居住区域の検討対象。対象住民の多い浪江、大熊、双葉、富岡の4町が区域の計画を作り、国はこれまでに計19平方キロを認定したが、対象地域全体の約7%にとどまる。今後、帰還希望者が増えるか、対象が計14世帯前後と少ない南相馬、葛尾、飯舘の3市村が計画を作れば区域が広がるが、大半は山林のため拡大は限定的になりそうだ。

政府は「全域解除目指す」

 4町で事故当時に自宅のあった人を対象にした調査では、全体の35%に当たる714世帯が帰還の意向があると回答したが、実際に帰還する人はもっと少数とみられる。帰還希望者は高齢者が多い上、国費で自宅の除染や解体をしてもらうために帰還意向を示した人が少なくないからだ。

 地元の自治体は、帰還困難区域の全域について避難指示の解除を求めている。政府は「全域解除を目指す」とする一方、山林は土砂流出のリスクから原則除染しない方針を決めており、解除に向けた具体的な方針は決まっていない。

 復興庁の担当者は「一日も早く希望者全員が戻れるよう、除染やインフラ整備を進めたい」としている。【尾崎修二】

 全3回で福島の特定帰還居住区域の今をまとめています。
 第1回・避難指示解除は点在の「まだら模様」 焦りと諦め 原発被害の現在地
 第2回・国の本音は「営農再開」に懐疑的 原発被災地の新帰還区域
 第3回・議論も保全も放置される山林 原発被災地の帰還困難区域
 写真と地図で見る・福島の特定帰還居住区域と帰還困難区域

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