イスラエルで再会した重吉伸一さん(右)と、弟子のイブゲニー・ラディシェブスキーさん=重吉さん提供
写真一覧

 ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、海外に多くの弟子がいる武道家の重吉伸一さん(66)=松江市=がロシアなどを訪れ、両国の弟子たちと数年ぶりに稽古(けいこ)した。侵攻によって弟子たちを取り巻く状況は一変しており、重吉さんは「戦争は誰も幸せにしない。早く平和を取り戻してほしい」と願っている。

 重吉さんは1982年に日本空手道教育研究会島根支部(現武徳館)を開設。空手や居合術、柔術などさまざまな武道で段位を持つ。海外にも出向いて現地の弟子たちの指導を長く続けてきたが、新型コロナウイルスの感染拡大で渡航が難しくなり一時中断。23年度から海外での指導を再開した。

 ウクライナ人の弟子、イブゲニー・ラディシェブスキーさんとは23年9月、イスラエルで再会した。ラディシェブスキーさんはウクライナ南部の港湾都市オデッサで武徳館の支部を設立したが、侵攻後は避難先のイスラエルで柔術教室を開いていた。

イスラエルで再会した重吉伸一さん(前列右)と、弟子のイブゲニー・ラディシェブスキーさん(前列左)ら=重吉さん提供
写真一覧

 約4年ぶりの再会で、重吉さんは「『元気だったか。心配したよ』と声をかけ、思わず涙が出てしまった。元気そうで本当によかった」と振り返る。

 1週間ほどラディシェブスキーさんとともに、教室の生徒らに指導した。いつも明るく気さくな性格のラディシェブスキーさんだが、侵攻が続くウクライナの話になると、心配そうな表情を見せた。「道着姿を見ることができてうれしかったが、本人はとても母国に帰りたがっていた。平和になったウクライナでまた一緒に汗を流したい」と話す。

 一方、今年3月にはロシアを訪ねた。「空港や街も平穏で、戦争の影響を感じなかった」という。しかし、ロシア人の弟子が運営する空手道場に行くと、生徒数が以前訪れた時の4分の1ほどの約20人に激減。経済状況が悪化し、子どもに習い事をさせる余裕がある家庭が減ったのだという。生徒たちがにぎやかに切磋琢磨(せっさたくま)する以前の道場を思い起こすと、戦争が一般市民の生活に及ぼす影響の大きさを感じざるを得なかったという。

 ロシアが侵攻を始めてから2年以上が経過したが、まだ終わりが見えてこない。重吉さんは「長く続く戦争は両国の人たちの生活や人生に大きな影響を与え続けている。両国の弟子たちが一緒に仲良く稽古ができる日が来ることを願っている」と話している。【目野創】

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。