「ぼくは地震の日にうまれました。みんなに助けられてうまれました」――。阪神大震災が起きた1995年1月17日、家族の愛情と多くの人の支えで誕生した一人の男性をモデルにした「1・17を語り継ぐ絵本」の原画が完成した。震災30年の節目の出版を目指しており、原画が6月12日から16日まで神戸市灘区の原田の森ギャラリー(兵庫県立美術館王子分館)で展示される。入場無料。
絵本のタイトルは「ぼくのたんじょうび」。震災発生から主人公・中村翼さん(29)=同市兵庫区=の誕生までを描く。大学時代の恩師が製作を発案し、東灘区の絵画教室で学ぶ子どもたちが体験談を基に挿絵を描いた。
震災発生当日、中村さんの両親は兵庫区の自宅マンションで激しい揺れに遭遇し、近くの小学校の運動場に避難した。中村さんはそれから約半日後に生まれた。避難所で破水した母を見ず知らずの女性が暖かい車の中で休ませてくれ、事情を知った警察官が迂回(うかい)路を利用して病院まで誘導してくれた。
「命をつないでくれた人に感謝を伝えたい」。中村さんは自身の誕生の経緯を両親から詳しく聞いて大学の卒業論文にまとめた。震災を語り継ぐ「語り部グループ」にも入った。
絵本は、中村さんの強い思いを生かそうと、神戸学院大社会防災学科(防災教育)の恩師、舩木伸江教授が中村さんと一緒に文を考えた。挿絵は客員教授で絵画教室「アトリエ太陽の子」を主宰する中嶋洋子さんに依頼。教室で学ぶ小中学生ら約110人が中村さんの話を聞き、みんなで挿絵を描いた。
「お父さんは、お母さんとおなかの中にいるぼくを必死で守ってくれたんだって」「病院も地震で壊れて電気も水も止まった。お父さんは懐中電灯でお母さんを照らしていたんだって」「おぎゃーーー 夕方6時21分ぼくはようやくうまれたんだって。お父さんもお母さんもたくさんたくさん泣いたらしいよ。うれしくて」
子どもたちが自由に描いた絵を切り貼りし、物語の場面に対応する9枚の挿絵ができあがった。市立成徳小4年、尾形音彩(ねいろ)さん(9)は「お父さんやお母さんの勇気のある行動を知ってほしい」。同小4年、森内琴音(ことね)さん(9)は「地震でつらい思いをした人がいたことを描いた」と話し、絵本の完成を楽しみにしている。
絵本の製本・出版に向けて中嶋さんらはクラウドファンディングで資金を募る予定だ。問い合わせはアトリエ太陽の子(078・858・7301)。【関谷徳】
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