「詐欺被害を救済します」とうたい無資格者に法律事務をさせたとして、警視庁が弁護士を逮捕した。SNSを通じた投資詐欺などが横行するなか、被害回復を巡り弁護士の名義貸しが疑われる事案が目立つ。詐取金を回収するのは難しく、無駄な費用を徴収されたと「2次被害」を訴える声も少なくない。弁護士会などが注意喚起している。
警視庁捜査2課は13日、弁護士で元衆院議員の今野智博容疑者(48)=埼玉県深谷市=を弁護士法違反(非弁提携)容疑で逮捕したと発表した。事務所のスタッフを名乗っていた29〜51歳の男女10人も同法違反(非弁活動)容疑で逮捕した。
今野容疑者は2023年12月〜24年1月ごろ、詐欺の被害者5人から着手金名目で計約280万円を受け取り法律事務を行う際に、無資格者の10人に自身の弁護士名義を使わせた疑いがある。同課は認否を明らかにしていない。
今野容疑者の法律事務所はウェブサイトで「詐欺被害の返金請求手続きは弁護士にお任せください」と広告し、SNS型投資詐欺や特殊詐欺を巡る相談を募っていた。同課は着手金名目で約900人から計約5億円を集め、一部は今野容疑者に渡ったとみている。
相談者には「十分取り戻せる」などといって着手金を求めたが、被害金を回収できたケースはほぼなかったとみられる。捜査幹部は「お金を取り返したいという被害者の思いにつけこんだ、組織的で悪質な犯行」とみる。
大阪地検特捜部も5月、ロマンス詐欺の被害救済をうたい広告会社に名義を貸し法律事務をさせたとして、弁護士の男(38)を同法違反(非弁提携)の疑いで逮捕した。救済をうたうネット広告を展開し、電話やSNSで相談を受けていたとみられている。
大阪弁護士会の調査によると、逮捕された弁護士は少なくとも1800人から9億円を超える着手金を集めていた。しかし実際に被害金を回収できたのは10人程度だった。
こうした広告に相談者が集まる背景には詐欺被害の深刻化がある。警察庁によると詐欺全体の被害額は23年に約1625億円に上り、19年(約469億円)の3倍以上に急増した。特殊詐欺のほか、SNS型投資詐欺やロマンス詐欺といった新手の手法が目立つ。
一方、被害金の回収は容易ではない。詐欺グループの銀行口座を凍結できた場合、残高や被害額に応じて一部が分配される制度が08年に始まった。しかしだまし取られた金はすぐに引き出されたり、暗号資産に換えられたりして回収できないケースが多い。
制度を運営する預金保険機構によると、23年度に被害者へ支払われた分配金は約24億円だった。
各地の消費者相談窓口には「弁護士に着手金を支払ったが動いてもらえない」といった訴えが増えている。国民生活センターの担当者は「被害状況によって必要な支援は異なる。まずは最寄りの消費生活センターに相談してほしい」と呼びかける。
各弁護士会も相次ぐ不正行為に警戒感を強めている。東京弁護士会は名義貸しが疑われる事務所の特徴として、所属弁護士が少ないのに24時間対応可能と宣伝することや電話番号が日本弁護士連合会に登録しているものと異なることなどを挙げる。
そのうえで、被害回復などを依頼する場合には事務所で弁護士本人と会い、詳細に説明を聞くといった対応を推奨している。
日弁連は警視庁が摘発した事件を受け13日、「被疑事実の通りであれば弁護士に対する信頼を大きく損なう行為で、捜査の進展を注視する」とのコメントを出した。今後について「不祥事防止に向け改めて全力で取り組みたい」としている。
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