富士山のふもとにある山梨県内の市町で、ホテルや旅館の利用者から徴収する「宿泊税」の導入に向けた検討が始まった。県内では、外国人を中心に観光客が増え、オーバーツーリズム(観光公害)も発生。市町は、観光振興や受け入れ態勢を充実させる新たな財源として宿泊税に着目した。
富士河口湖町は5月、宿泊税を導入する方針を明らかにした。関係部署の初会合を開き、先行する自治体の状況を調査している。
宿泊税導入は、2023年11月に初当選した渡辺英之町長が町長選で掲げた公約でもある。町内にはホテルや旅館などが700軒以上あり、富士北麓(ほくろく)で最も宿泊施設が集中する地域だ。外国人観光客も多く、「コンビニエンスストアと富士山」の撮影スポットでマナー違反が多発。撮影を妨げる黒い幕を張るなどの対策を迫られた。
町の担当者は「少子高齢化で税収減は避けられず、町の収入だけで主力の観光業を支えていくのが難しくなる」と話す。
隣の富士吉田市も地元の商工会議所から要望を受け、4月に関係部署を集めた部会を初めて開いた。堀内茂市長は税収の使い道について、「観光客が戸惑うことなく安全、安心に楽しめると同時に、受け入れる地域との摩擦を最小限に食い止める方策に使っていく」と方針を示した。
宿泊税は、自治体が条例を制定して独自に課税する法定外税で、導入には総務相の同意が必要。東京都が2002年に初めて徴収し、現在は大阪府や京都市、金沢市など9自治体が導入している。近年の観光客の増加を背景に、全国で導入に向けた動きが出ている。
県内の両市町はともに26年度の導入を目指し、有識者や宿泊施設の関係団体から意見を聞き、税収の使い道や課税額などを決める方針。
観光客数にばらつき、調整に難しさも
宿泊税の導入を巡り、堀内茂・富士吉田市長は、「富士北麓地域の全体で導入するのが望ましい」と主張する。近接した市町村で課税の有無が異なると、観光客の混乱を招きかねないからだ。
ただ、宿泊施設や外国人観光客の数は地域内でばらつきがある。山梨県のまとめによると、富士北麓地域の宿泊者は2022年に約450万人。このうち6割を超える300万人が河口湖周辺や富士吉田市内に泊まった。外国人観光客が多数訪れることによる課題は、富士吉田市と富士河口湖町に集中している。
地域内で同町に次ぐ宿泊施設を抱える山中湖村も「現時点で導入の議論はしていない」(観光課)。
宿泊税導入に前向きな2市町の間でも、事情は異なる。県によると宿泊施設(民泊を除く)は23年3月現在、富士吉田市に約190軒あり、このうち旅館・ホテルが60軒。富士河口湖町には775軒で、旅館・ホテルは232軒に上り、高価格帯も目立つ。市町は導入に向けて情報共有するが、ある幹部は「課税額を統一した方が分かりやすいが、施設数や価格帯が異なり、調整が難しい面もある」と懸念する。
先行する他の自治体では、徴収業務を担う宿泊事業者の負担も課題とされる。導入する市町は税の使い道を明確にし、事業者の理解を得ることが求められる。【野田樹】
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