沖島の港から見た風景。船がずらりと並び、狭い土地に民家が密集して建っている=滋賀県近江八幡市沖島町で2024年4月6日午後1時37分、長谷川隆広撮影
写真一覧

 「日本でここだけ」と聞いて行ってみた。滋賀県近江八幡市の沖島。湖上で人が暮らす唯一の島だそうだ。4月上旬に訪ねた沖島は、離島情緒漂う癒やしの場だった。

 橋はなく、島には船で渡る。桜がお目当てなのか、対岸の堀切港で乗った船は満席だった。10分の距離とはいえ、揺れに身を任せ、白波を眺めていると、そこはやはり船旅、妙にわくわくしてくる。

 島に着くと、港で80代の男性3人がベンチに並んで日向ぼっこ。のんびりした空気にうれしくなる。聞くと全員、島の元漁師さん。「政治の話は難しいから、冗談ばかり話してるんや」と83歳男性。島の暮らしはどんなですか?「昔は琵琶湖の水がきれいで、漁の時はお茶代わりに水をすくって飲んだもんや」。ほかの2人もうんうんと。これは冗談ではないらしい。しばらく話を聞いて別れ際、「イノシシに気をつけて」。対岸から泳いで上陸してくるのだとか。

 まずは腹ごしらえ。漁師の奥さん方で作る「湖島婦貴(ことぶき)の会」が港で地元の食材を使った食べ物を売っている。1個500円の「エビ豆コロッケサンド」を買い、近くの公園で桜を見ながら食べた。琵琶湖産スジエビの風味がきいておいしかった。これで準備万端。歩くぞ。

島の至るところで三輪自転車が走っている=滋賀県近江八幡市沖島町で2024年4月6日午前11時0分、長谷川隆広撮影
写真一覧

 最初は港から1キロ弱の「千円畑」へ。しばらく歩くと、自動車が走っていないことに気づく。ただ、至る所で三輪自転車が走っている。「なぜ」と考えていると、さっと三輪自転車に抜かれた。待って待って。畑仕事に向かう冨田ツヤ子さん(87)だ。「三輪だから(ひっくり)返らないので安心。後ろに野菜やら肥料やらたくさん載せられるんよ」。なるほど。納得です。

 到着した「千円畑」は、3メートル四方の畑がパッチワークのように広がっていた。畑にいたお年寄り2人が「昔1区画1000円で売っていたから」と名前の由来を教えてくれた。

 次は沖島小学校へ。島民の息づかいを感じたくて狭い路地を歩いた。民家がびっしり。あら、向こうから三輪自転車が。お邪魔してます。体を横にして何とかすれ違った。途中で旧小学校跡地にできた展望台に立ち寄って島の風景を満喫し、沖島小に。琵琶湖に面した緑のグラウンド、こじんまりした木造校舎。桜に菜の花……。ドラマに出てきそう。ここで学んでみたいな。

堤防に掲げられた「もんてきて沖島!」の文字=滋賀県近江八幡市沖島町で2024年4月6日午後2時3分、長谷川隆広撮影
写真一覧

 お年寄りが多い島だけど、港で若い女性3人組を見つけた。2回目の来島だという草津市の中川美緒さん(27)たち。「空気がきれいだし、街並みがレトロな雰囲気で、居心地がいいんです」。全く同感です。

 帰りの船は客室が満席で、船の後部にライフジャケットを付けての乗船。堤防に「もんてきて沖島!」の文字を見つけた。「帰っておいで」という意味だとか。はい。またすぐにもんてきます!

【長谷川隆広】

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。