東京都知事選は17日間の選挙戦がスタートした。約1400万人の人口を抱える首都は、都市開発の進展や少子高齢化に伴う多くの課題に直面する。高齢者から若者まで都民全体が安心して暮らしやすい街をどう実現するか。過去最多の立候補者となった論戦に有権者は活発な議論を期待した。

高層マンション、防災強化を

東京都心に林立するタワーマンション。価格高騰が話題になる一方、住民が抱える切実な不安は大規模災害への備えだ。

「多くのタワマンが大規模な地震を経験したことがない。災害時の新たな課題と捉えて、都政でしっかりと対策を進めてほしい」。タワマンを含む地域の防災活動に携わる一般社団法人「地域防災支援協会」(東京・中央)の三平洵代表理事は求める。

火災のリスクが高い木造住宅密集地域の解消とともに、高層マンションを含む集合住宅の災害対策も重要性が増す。国勢調査によると、15階建て以上の共同住宅に住む都民は2020年に約63万人。05年から2.6倍に増えた。都の首都直下型地震の被害想定はエレベーターの停止によって高層階の住民が孤立する恐れなどを指摘した。

電気や水道などのインフラが長期間途絶した場合、高層階で物資の補給やゴミの処理などに困り、在宅避難を続けるのが難しい住民が多く発生しかねない。三平さんは「大勢が避難所に集まれば、受け入れ先も足りなくなる」と危機感を抱く。

都は23年にマンションの防災に特化した冊子を都内の全世帯に配布。管理組合など向けに防災セミナーを始め、停電時でも住民が在宅避難を続けられるように、発電機や簡易トイレなどの購入費を上限額の範囲内で補助している。

三平さんは「マンションの規模や住民の数に応じた支援メニューについても議論を深めてもらいたい」と話す。

「買い物弱者」10年比で15%増

スーパーなどが歩いて行ける範囲にない「買い物弱者」が都会でも増えつつある。

都は50年におよそ3人に1人が65歳以上になる。人口減や経営難で地域のスーパーが閉店し、エリアによっては赤字のバス路線の縮小も進む。

移動販売で野菜などを購入する団地の住民ら(19日、東京都八王子市)

「徒歩十数分の距離にある最寄りのスーパーすら、遠く感じるようになってきた」。八王子市の都営団地で一人暮らしする女性(88)はため息をつく。

重い荷物を持って歩かずにすむようにJAなどの移動販売を利用し、1週間分の野菜を買い込む。「周辺のバスの便数も徐々に減っている。移動販売を行き渡らせるなど、高齢者の暮らしにも目を向けてほしい」と求める。

農林水産政策研究所の推計で、自宅からスーパーなどへの距離が500メートル以上あり、車の使用が難しい65歳以上の都民は20年に53万人。集計方法が異なり単純比較はできないが10年から15%増えた。うち75歳以上は29万人に上る。

都は民間事業者と連携し、都営住宅約90カ所で移動販売を支援する。ただ、ある事業者の代表は「人手が足りず休止した。再開したくても採算がとれない」と明かす。別の事業者の担当者も「回れる場所には限界がある。行政が住民の移動手段を確保する取り組みも欠かせない」と話す。

都内の空き家、予防の手立ては

空き家の解消も首都の課題の一つだ。

都内の空き家は23年10月時点で89万戸と18年から1割増えた。うち賃貸用や別荘などを除く長い間不在で使用目的がない「放置空き家」は21万戸。住宅総数に占める空き家の割合は11%で、うち10万戸に腐朽や破損があった。

空き家問題に詳しいNPO法人「都民空き家予防協会」(東京・世田谷)によると、一人暮らしの高齢者の死後に相続協議が難航し、住居が管理されないまま空き家になることが多い。荒天で瓦が落ちたり、野生動物がすみ着いたりした家もあるという。

森角和則理事長は「地域の治安を保つためにも、空き家はひとごとではない」と話す。空き家は災害時の損壊リスクも高い。「未然に防ぐような対策が求められる」と強調する。景観の悪化は街の活性化にもマイナスだ。

独居高齢者を支援するNPO法人「都民シルバーサポートセンター」(同)は自宅の売却や準備を多い月に10件ほどサポートする。大西統専務理事は「元気なうちから備えられる人は限られる。都には資産承継の準備など空き家予防の啓発に一段と力を入れてもらいたい」と求めた。(森紗良、原田花鈴)

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