1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率が、2023年の最新データで過去最低の1・20となった。都道府県別では、東京都が0・99で最下位だったのに対し、四国で人口減少が最も深刻な高知県は1・30で24位だった。え、これって、東京より高知の女性の方が子どもをたくさん産むということ? 高知が子育てしやすい環境だから? 高知県元気な未来創造戦略推進委員会の委員で人口データ分析の専門家、天野馨南子・ニッセイ基礎研究所人口動態シニアリサーチャーにこうした疑問をぶつけてみた。【聞き手・小林理】
――まず最初に、合計特殊出生率の算出方法を教えてください。
◆15歳から49歳までの女性について、各年齢の出生率(産まれた子どもの数を人口で割った数値)を足し合わせて計算します。毎年、厚生労働省が前年の数字を発表します。
――夫婦が持つ子どもの数の平均値という意味ですか?
◆いいえ。算出方法で対象となる女性の年齢を見てください。女性の「母数」には未婚者がほとんどの10代や、生涯未婚の方も多く含まれています。合計特殊出生率は「(都道府県など)特定のエリアに住む15~49歳の女性が、一生涯に持つであろう子どもの数の予想平均値」を1年ごとに示した数値です。
――いくつあれば現在の人口を維持できるのですか?
◆今の日本の人口を維持するのに必要な水準は2・06~2・07です。また、15年に政府が掲げた目標で、若い世代の結婚、妊娠・出産、子育ての希望がかなうとした場合に想定される「希望出生率」として1・8が挙げられています。
――なぜ合計特殊出生率は下がり続けているのですか?
◆夫婦が持つ子どもの数が減ることと、未婚女性の比率が高くなることが要因として考えられます。全国平均では、初婚同士で結婚した夫婦が生涯に持つ子どもの数は2人程度と近年は大きく変化していませんので、未婚者の割合が増えていることが主因です。
――23年のデータを見ると、高知県など人口減少が深刻な四国4県の数値が東京都や国の平均を上回っています。子育てしやすい環境なので、東京より高知の女性の方が子どもをたくさん産むということですか?
◆それは誤解です。都道府県や市町村では人口の移動があります。特に多いのは未婚女性の移動で、就職時に多くの女性が地方から都市部に出ていきます。これを私は「自動未婚化解消」と呼んでいます。地方では、合計特殊出生率を計算する際の分母となっていた女性の中で、未婚者の割合が減り、既婚者が多くなるためです。これを突き詰めると、限界集落と言われるようなエリアで、「出生数」が減っているのに「出生率」は上がるという現象が起きます。
――都市部では逆のことが起きている?
◆そうです。都市部では逆に「自動未婚化」が起きて、分母となる女性の中での未婚者の割合が大きくなるので、出生率は下がります。特に東京への一極集中が著しいため、東京都は0・99と1を割り込みました。
――出産の可能性がある未婚女性が多い方が、合計特殊出生率が下がるのであれば、自治体ごとに出生率を比べることにあまり意味はないのでは?
◆その通りです。自治体が政策を立案する際に、出生率は使わないでもらいたいのです。大事なのは、地元に未婚の女性がどれだけ残ってくれるかということ。いくら出生率が高くても、未婚女性が絶えず出ていくような場所では子どもは産まれません。出生率が高いエリアは、それを喜ぶのではなく、なぜそうなったのかを疑ってみるべきです。
――少子化対策の指標としてはどのデータが有効なのでしょうか?
◆出生数です。少子化対策を考える際に重要なのは、出生率という「割合」ではなく出生数という「実数」です。しかし、自治体などが少子化対策を考える際、出生率という割合の高さや低さに重きを置いてしまうケースが非常に多かったのです。
――高知県でも、少子化対策として、従来の出生率目標から出生数を重視する政策に転換しました。地方で出生数を上げるためにはどんな対策が必要でしょうか?
◆若い女性に地域に定着してもらうことです。特に若い女性が大量移動する就職の時に地域にとどまってもらえるか、外から来てもらえるかが最大のポイントです。高知県では23年に20代の女性が3・8%も減りました。これが10年続けば20代の女性は3割以上減少します。当然、子どもの数も減ります。放置すれば県全体が衰退するのは明らかです。
――子育て支援を掲げる企業も増えていますが、歯止めにはなりませんか?
◆子育て期間中だけ支援するのではなく、長い間、女性が安心して働ける環境を作れるかが重要です。仕事にやりがいがあって、賃金や昇進に性差がないことが不可欠です。若い女性の流出を防ぐには「雇用」でつなぎ留めるしかない。それは女性に結婚・出産を強制するという意味ではありません。女性が生き生きと働き、暮らせる社会を作ることこそ、出産や子育ての大前提なのです。
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