「富岡製糸場と絹産業遺産群」が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に登録されてから25日で10年を迎えるのを前に、製糸場がある群馬県富岡市の榎本義法市長が毎日新聞のインタビューに応じた。榎本市長は、入場者の確保が課題となる中で、キッチンカーを場内に入れることを検討していると明かし、製糸場の設立に関わったフランス人技術者のポール・ブリュナが家族と住んだ首長館(ブリュナ館)を早期に整備して公開する考えを示した。【聞き手・加藤栄】
――この10年の取り組みを振り返って成功したことは?
◆国宝の「西置繭所」の整備だ。2014年から6年間かけて整備し、1階内部に多目的ホールができた。有料で一般に貸し出しており、23年度は44件の利用があった。
世界遺産なので本来は現状維持が基本だが、耐震補強工事をして現代でも使える場所にしたのは、ほかの世界遺産の手本にもなるような革新的なことだったと捉えている。
――反省点は?
◆世界遺産なので制限や規制はあるが、飲食エリアを確保しても良かったと思う。場内では飲み物を飲んだり、ホールに限って食事をしたりすることができるものの、喫茶コーナーがあるわけではない。
これからさまざまな可能性を追求していくが、現時点ではキッチンカーを場内に入れて飲食をしてもらうことを検討している。
――入場者数はコロナ禍で落ち込んだものの、回復傾向にある。今後、必要なことは。
◆入場料を整備費に充てているので、安定的に入場者を確保するためには、見学場所を増やす必要がある。工事中の乾燥場や現在は見学できない首長館など、早く整備をして見学ができるようにしたい。
ただ、場内には100棟ほどの建物があるので、雨漏りなどの応急処置はしつつ、世界遺産登録になった意味を伝える場所を中心に保存や活用をしていきたいと考えている。
また、「生糸生産の一連の流れがわかる動態展示を」という要望もある。世界遺産なので中にある機械を簡単に動かすことはできないが、動態展示も検討する必要がある。
――このほかに重点的に取り組みたいことは。
◆歴史的な背景を知ってもらえば、より富岡製糸場の価値を感じ、理解を深めてもらえると思う。そのため、解説員のガイドをまず聞いてもらいたい。
そして、150年以上守られてきた歴史の中で、保存に努力してきた人たちのドラマみたいなものも伝える必要があると思う。そういった魅力は磨けばまだまだある。
――世界遺産をこれからも保存整備していくことに対する思いは。
◆人口が減り市の規模も小さくなる中で、大きなものを背負っているのは間違いない。ただし、世界の宝を預かっているので、維持活用していくのが市の責任だと思う。絶対続けていくという覚悟を持っている。
その上で、入場者を確保するためにピアノコンサートのような文化的イベントをやるなどして、足を運んでもらった人がより満足できるようなコンテンツを増やしていきたい。
――地元の人たちにとってはどのような場所か。
◆製糸場のシンボルで、老朽化で劣化した煙突の保存整備に関するクラウドファンディングは300人以上の個人と100以上の企業・団体が支援してくれ、思い入れは強いと思う。市民のみなさんにも誇りに思ってもらえるように努力していく。
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