国立ハンセン病療養所菊池恵楓園に所蔵されている「虹波」=共同

国立ハンセン病療養所菊池恵楓園(熊本県合志市)で行われていた開発中の薬「虹波」を患者に投与する臨床試験に関する24日公表の調査報告書では、被験者に6歳の子どもや67歳の高齢患者が含まれていた。被験者が訴えた強い頭痛や目まいなど深刻な副作用の実態も初めて判明。臨床試験の人道的な課題を浮き彫りにしている。

虹波は写真の感光剤を合成した薬剤で、戦時中に旧日本陸軍が寒冷地での兵士の凍傷対策など肉体強化に役立てるため研究されたとされる。

報告書によると、臨床試験は1942年12月から47年6月まで続き、被験者は判明しているだけで472人。うち一部は年齢の記載があった。他にも約370人が参加した可能性があるとしている。

6歳や67歳の患者に投薬されたのは42年12月から44年2月の第1次試験。期間中に9人が死亡し、うち37歳と29歳の男性2人は、特に副作用の影響が疑われるとしている。

37歳の男性は投与開始18日目に目まいを訴えて頭痛がひどくなり、嘔吐(おうと)。投薬が中止されたが34日目に死亡した。もう1人の男性は全身の倦怠(けんたい)感などを訴え、投与開始から127日目に死亡した。

報告書は「試験を中止する判断をしなかった医師らの医療倫理の在り方に疑問が持たれる」と指摘している。

東京都の多磨全生園や岡山県の長島愛生園など他の療養所で投与された可能性にも触れている。

関連する資料は、菊池恵楓園歴史資料館の学芸員が中心となって整理してきた。2020年ごろ、ノートや報告書など数点が見つかり、入所者自治会の要請で22年末から精査していた。引き続き、薬が投与された患者の特定など調査を続ける方針。〔共同〕

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