クマによる人身被害が相次ぐ現場近くの「酸ケ湯温泉旅館」には注意を促す紙が張り出された=青森市で2024年6月26日、松本信太郎撮影

 八甲田山系にある青森市郊外の山中で25日に80代女性がクマに襲われて死亡した事案を受け、青森県は出没警報を発令して警戒を呼びかけている。県内のクマ出没件数は過去最多だった2023年(1133件)を上回るペースで推移。安全確保のためキャンプ場を閉鎖する動きもあるなど、関係者は緊張を強いられている。

 市などによると、亡くなった同県むつ市の女性はタケノコ採りをしていたといい、救出時に多数の外傷が確認された。県内でクマの襲撃による死者が出たのは21年の平川市以来、3年ぶりという。

青森市・八甲田大岳の事故現場

 事故現場周辺では他にも人身被害などが相次ぐ。21日にもタケノコ採りの女性がクマに襲われて大けがをした。また22日には持参した食料を奪われ、追いかけられる事案もあった。県は25日、県内全域に出していた「ツキノワグマ出没注意報」を警報に引き上げた。

 夏山シーズンを迎え、登山客や観光客の受け入れ態勢を整えていた八甲田山の旅館や登山関係者は対応に追われている。

クマに襲われたとみられる死亡事故を受け、閉鎖された酸ケ湯キャンプ場=青森市で2024年6月26日、松本信太郎撮影

 現場から約2キロの距離に位置する酸ケ湯温泉旅館は26日、管理するキャンプ場の閉鎖に初めて踏み切った。畑田素子支配人は「人を襲ったクマはまた人を襲う恐れがあり、まだ駆除されていないことから営業を続けていくのは危険と判断した。ショックだし、残念です」と話した。

 一方、県山岳連盟(服部一雄会長)など9団体で構成する実行委員会と、周辺事業者などでつくる八甲田振興協議会は27日、連名で女性を襲ったクマの駆除を求める要望書を県に提出した。実行委は「八甲田山の日」記念山開き登山大会を7日に開催し、参加者が八甲田大岳などを巡る予定だったが、中止する方向で検討を進めているという。

 青森市の西秀記市長は26日の記者会見で「今回、死亡事故があった区域へ立ち入ったり、近づいたりしないでほしい」と訴えた。入山規制も含めた今後の対応について「早急に環境省などの関係機関と協議したい。観光面で影響が出てくる可能性があるので憂慮している」とした。【松本信太郎、江澤雄志】

大西尚樹・森林総合研究所動物生態遺伝チーム長の話

大西尚樹さん=本人提供

 八甲田山系の近いエリアで相次いで人が襲われていることから、今回の3件は同じクマによる被害の可能性が高い。

 25日に襲われ亡くなった女性の救助活動にかかわった猟友会のハンターによると、クマは女性の近くにずっといて逃げなかったという。クマは自分の餌と認識すると、他に取られないように守る習性がある。女性がタケノコなどの食べ物を持っていたとすれば、それを狙ったのかもしれない。

 大人の雄グマは1日数キロ歩く。このクマが駆除されたことが確認できない限り、このエリアに立ち入ってはならない。今は繁殖時期で、雄が交尾のために動き回っており、遭遇する確率が高い。

 クマは基本的には人間を恐れている。人を襲うという発想はそもそもないが、何かをきっかけに人が持っている食べ物を奪いとることを学習する。

 ただ、そういったクマは全体のごく一部だ。今回の現場付近以外での山の活動では、鈴やラジオなどを使って音を出し人の存在をクマに気付かせることや、クマよけのスプレーを携行する、ヘルメットをかぶるなどの対策が有効だ。

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