「会いに来ました」。金沢市の自宅のチャイムが鳴り、大間圭介さん(42)が玄関ドアを開けると、近所の男の子が立っていた。長男の同級生で、手作りしたという銀色のブレスレットを、誕生日プレゼントとして持参していた。「お菓子も一緒に食べていいですか」。遺影が飾られた6畳間に座り、在りし日の長男の思い出を話してくれた。
元日の能登半島地震で、石川県珠洲(すず)市仁江(にえ)町にあった妻はる香さん(当時38歳)の実家が土砂崩れに巻き込まれた。妻だけでなく長女優香さん(同11歳)、長男泰介さん(同9歳)、次男湊介ちゃん(同3歳)が犠牲になった。家族のうち、大間さんだけが残された。
地震からの半年で3月17日に長男、4月10日に妻、同26日に長女の誕生日が来た。子どもの誕生日には同級生らから手紙やお菓子、カチューシャなどのプレゼントが届けられた。手紙には「天国に行っても幸せでね」「これからも私たちのこと見守ってね」などと書かれている。
「手紙を読むのはつらいですね。外出し、子どもたちの同級生を見る時も、幸せそうな家族を見たりしても……」。まだ読むことができないままの手紙もある。地震後しばらくは、外出する機会も減ったという。
子どもたちの友人が自宅を訪れるきっかけになったのが、大間さんが1月下旬に開設したネット交流サービス(SNS)のインスタグラムだ。寝る前によく投稿している。自身の古里でもある珠洲市の海に出かけたり、夏祭りに参加したりした時の思い出だ。「写真を見返すとつらくなることがある。それでも、みんなの知らない妻と子どもたちを発信していきたい」
春までほぼ毎日続けた投稿は約90件に上り、フォロワーは1万人を超えた。「遠い赤の他人ですが、一緒に泣いています」「ずっとパパのこと優しく見守ってくれていますよ」などと励ましのメッセージが寄せられている。
「ずっと下を向いていても、子どもたちに申し訳ないな」。3月に県警の警察官として仕事に復帰した。
長女と長男は昨秋、学校行事のマラソン大会を前に、前年より良い成績を目指すと言った。子どもたちに「やればできるよ」と言ったことを思い出した。
いまは10月にある「金沢マラソン」に、久しぶりに参加しようと考えている。試しに走ってみると、体のなまりを感じた。「お父さんも有言実行しなくちゃな」。写真の中でほほえむ家族に語りかけた。【井村陸】
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