格安ながらも、さまざまな理由から問題を抱える「ワケあり物件」は、格安ながらも買い手が付きにくいイメージも少なくない。しかし、近年では、そんなワケあり物件が注目され、購入者が増えているという。ワケありでも人気があるのは、いったいどのような物件なのだろうか。ワケあり物件のさまざま“ワケ”を聞きながら、理由を調べてみた。
親の孤独死で売却「維持が難しい」
3月25日、「ワケあり物件を売りたい」という相談を聞き、(株)マークス不動産の佐藤祐貴さんと向かったのは神奈川県茅ヶ崎市。
この記事の画像(40枚)JR茅ヶ崎駅から徒歩7分ほどの場所にある築37年のマンションだ。
駅近の立地に佇むマンションはごく普通の物件で、一見すると“ワケあり”の気配は全く感じさせない。
マンション一室にある2DKの部屋を売りたいと考えているのは、依頼主の40代男性とその家族。
部屋を見せてもらうと、所々老朽化は進んでいるものの、部屋自体はよくある間取りだ。
修繕前で殺風景だが、特別変わった様子もない。いったいどのようなワケがあるのか聞いてみたところーーー。
依頼人:
父が自宅でなくなりまして、事故物件ということで売却の依頼をお願いしました。
依頼人:
こちらの部屋になります。1人で住んでいたので夏倒れてそのまま意識戻らずに亡くなったということで…。
事情を詳しく聞くと、2023年8月、この家で一人暮らしをしていた70代の父親が、この部屋で病死してしまったという。
依頼人の男性は普段から父親と連絡を取っていなかったため、発見したのは亡くなってから3カ月後だった。
発見が遅れたことで、依頼人の男性の父親は“孤独死”と認定された。孤独死してしまった人の物件はいわゆる事故物件となってしまうため、複雑な状況に置かれてしまいがちだ。
マークス不動産の佐藤祐貴さんに話を聞くと、実はこうした事故物件の売却の相談は増えているという。
佐藤祐貴さん:
大体平均として1日で5件から10件くらいは入ってきているような状況です。2022年と比べると(2023は)約2倍くらいには増えております。
今回の依頼人の男性にマークス不動産へ売却を依頼した理由を聞いてみたところ、切実な答えが返ってきた。
――普通の不動産では扱ってくれない?
依頼人:
そうですね、はい。みんな断られたってことだったので…。
実は事故物件の場合は対応できる不動産会社が少なく、売却は一苦労だそうだ。
しかし、それでも父親の自宅を売ろうと考えたのは、難しい現実問題が絡んでいた。
依頼人:
維持していくのちょっと大変なので、引き取っていただければ助かるというのが一番ですね。
依頼人の男性は、既に他の場所で家族との生活があるため、たとえ親の住んでいた家でも持て余してしまうのが実情だ。住むことがないなら、維持も困難になる。
その後、依頼人の物件は、特殊清掃と遺品整理の料金含め、900万円で買い取りが決まった。このあとリフォームを行い、販売を予定しているという。(2024年3月現在)
このようなワケあり物件は少なくないという話だが、他にはどのような事情の物件が売られているのだろうか。
違反建築で1200万円が半額以下!
次にハッピープランニング株式会社の大熊昭さんと共に向かったのは、千葉県松戸市の閑静な住宅街。最寄り駅から車で10分の場所にある物件は、築40年の2階建ての3DKの一軒家だ。
都心まで車で約1時間とアクセスも良く、不動産として高い価値があってもおかしくない条件が揃っている。しかしそんな物件も格安になる複雑な“ワケ”があるという。
まずは通常であれば相場はどれぐらいなのか聞いてみた。
大熊昭さん:
(通常は)1,000万円~1,200万円くらいの価格になるかなと思ってます。
――しかし、その価格は?
大熊昭さん:
600万円といった金額になりますね。
なんと相場の半額ほどで販売予定だという。事情を聞いたところ、人が亡くなるなどした事故物件ではないそうだ。では、なぜこんなにも格安なのか?
大熊さんに案内され、物件の中を見せてもらうとーーー。
スタッフ:うわ、すごい。
大熊昭さん:
まだお荷物が残っているような状況なんですよね。
物件に入ってみると、玄関にはヘルメットや未使用のホウキ、バイク用のオイルなどが無造作に放置されたままだ。さらに部屋の奥に進むと…。
大熊昭さん:
こちらで生活してた感が強いですね。
部屋には干されたままの洗濯物や使われたコップなどがあり、つい先日まで人が住んでいたような状況だ。
さらにダイニングキッチンには大量のゴミが残されたままで、部屋の中は荒れ気味といえる。
――俗に言うゴミ屋敷?
大熊昭さん:
お片付けができていない形の半分ゴミ屋敷みたいな形ですかね。
実はこの物件には70代の男性が一人で暮らしていたが、病院で亡くなってしまったという。親族もいなかったため、家の中は手つかずのワケあり物件になってしまったのだ。
格安な理由はゴミや遺品のせいかと思い、話を進めると大熊さんから意外な答えが返ってきた。
――では、安さのワケはこのゴミ?
大熊昭さん:
(ワケは)ゴミ屋敷ではなくてですね。ゴミは弊社の方で片付けさせていただきます。
なんとワケあり物件が格安な理由は、ゴミのせいではないという。詳しく聞くと実際の理由は予想外の事情だった。
大熊昭さん:
ここの敷地に対して、ここの建物は半分以下くらいで建てなければいけないんですけど、こう見ていただくと、いっぱいいっぱいに建っているような形ですね。
実はこの物件がある松戸市の住宅街では、都市計画で土地の面積のうち、建物が占める部分は40%以内と定められているそうだ。しかしこの物件はその条件が守られていなかった。
大熊昭さん:
ここでいうと80%以上の比率で建ってますので、それが違反建築物といった形になります。
こうした違反建築物は、購入に住宅ローンが使えず、現金で買わなければいけない制限がある。しかし現金となると、相場の1000万円以上の設定では買うという人は現れにくい。そのため、通常より格安のワケあり物件として販売しているわけだ。
また、ローンを組めないことに加え、別の事情もあるという。
大熊昭さん:
再建築するにしても、土地が小さいので本当に小さな間取りの一戸建てしか建ちませんので、賃貸に出したりとか自分で住んだりとかそういった形が多いです。
この物件をもし建て替えた場合、都市計画の条件に則ると現在と同じ大きさの建物は建てることができない。
使い方が限られるという点も、販売価格が安くなっている理由だ。
「私道が長い」2000万円が半額!
続いて訪れたのは、同じく千葉県松戸市の住宅街にある築50年4LDKの一軒家。
東京の中心部にアクセスしやすいエリアで、最寄り駅から徒歩10分の立地と、またもや一見すると好条件の物件だ。
大熊さんに連れられ、さっそく中に入る。
――家の中は結構キレイですね。
大熊昭さん:
そうですね、気になるところは直させていただいて。ここがリビングでこちらがキッチンになりますね。
1階は12畳の広々としたリビングと洋室が1部屋。物件の中はリフォームが済み、真新しい空間が広がっている。
キッチンもピカピカで室内は新築のような面持ちだ。
さらに2階には4.5畳と6畳の和室、広々とした収納スペースも付いている充実ぶり。
リフォーム済みの4LDKの一軒家というと、普通は高いような気もするが…。
大熊昭さん:
普通であれば2000万円を超えてくる物件になります。こちらは約1000万円ですね。
なんと相場の約半額の1000万円で販売しているというのだ。リフォーム済みの好条件物件がいったいなぜ、そこまで安くなるのだろうか。
大熊さんに聞いてみると、そのワケはまたしても家の外にあった。
大熊昭さん:
こちらの物件はですね、前面の道路、私道がですね、35m以上ありますので建て替えができないといった物件となっております。
じつは建築基準法で建物に行き止まりになっている私道がある場合、公道までの長さが35m以上ある場所は再建築できない。今回の物件はこの私道が長すぎることが原因で、ワケあり物件となっているのだ。
実際に公道から家の敷地までの長さを測ってみると37m30cmあった。
物件の価格は安いものの、建て替えができないとなると使い道が限られてしまう。
それでも物件を購入する人はいるのだろうか。こういったケースについて大熊さんに傾向を尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。
大熊昭さん:
ここですと、ファミリー層。駐車場もありますし、買われるケースが結構多いです。
使い道は限られていても、今回のように条件が良い場合は住宅として人気があるそう。視点を変えてみれば、確かに家として使うことを目的とするのなら悪い条件ではない。最初から目的が定まっているのなら、格安の“ワケ”は些細な問題だ。
破格の580万円。ワケは“10㎝”の幅
続いて訪れたのは、人口増加率が6年連続全国1位の千葉県流山市。
商業施設が立ち並ぶ流山おおたかの森駅を中心に、子育て世代に人気の街として知られている。
そんなファミリーに人気の町にもワケあり物件があるそうだ。人気エリアとなるとワケあり物件でも価格が高い可能性もあるだろう。土地の人気について、大熊さんに尋ねてみた。
――実際ここら辺の人気ってどうなんですか?
大熊昭さん:
流山の中心部からじわじわと周りに人気が出てきているような状況ですね。
人気の出ているエリアで、格安物件になっているのはどのようなワケがあるのだろうか。おおたかの森から車で10分ほどの場所にある物件に向かってみる。
現れたのは、シンプルな2階建ての一軒家だ。中に入ると年期が入った和室が一室。和室にはキッチンが接する形で配置されている。
2階は4.5畳と3畳の和室が2部屋連なっている作りで、レトロ感を感じさせる家づくりだ。
大熊昭さん:
ここはリフォームとかはしないでこのまま販売する形になると思います。
それもそのはず、この物件は築50年の3Kの物件だそうで、古い物件とあって家の至る所には老朽化も見られている。
キッチンにあるコンロの頭上を見てみると、天井が剝き出しになっていた。壁紙もずるりと剥け、天井から垂れ下がっている状態だ。
大熊昭さん:
これはですね。調理とかしていた時の熱で表面材が剥がれたって形ですね。これはすぐに直ってしまうので。そこまで大きいワケといったワケじゃないですよね。
キッチンの天井や築年数の長さはどうやら格安物件の“ワケ”ではないらしい。しかも通常このエリアの場合は、この状態でも相場は1000万円を超えるという。
では、この物件の価格はいくらなのだろうか?
大熊昭さん:
580万円。半額近くお安くなっている形ですね。
相場の約半額という金額は驚きを隠せない。室内には物件が安くなる大きな理由はないそうだが、いったい何が理由でここまでの価格になるのだろうか。
案内する大熊さんに付いて行くと、なんと今回も格安の“ワケ”は外にあったーーー。
大熊昭さん:
こちらの物件のワケなんですけど、ここの道路に本来であれば2m接していなければいけないんですけど…。建築基準法で2m接していないから再建築ができないといった形になります。
建築基準法において、敷地が道路に2m接していないことでも、家の建て替えができないと決まっている。
今回の物件も、この建築基準法の違反が格安になっている理由というワケだ。
スタッフが実際に物件との接道部を測ってみると、その幅は1m90cmだった。
たった10㎝足りないだけだが、建て替えはできない。使い道が限られてしまうため、ワケあり物件として扱われることになったのだ。しかし、大熊さんによれば、それでもこういった物件を買いたいという人がいるという。
――こういった物件でも需要はある?
大熊昭さん:
需要はありますね。お値段が割と抑えられている分ですね、ご自分でリフォームして、住まわれたりとか…。
“安さ優先”で事故物件でも需要増
近年では、様々な理由で値段が安くなるワケあり物件を扱う件数が増えているそうだ。しかし、中には孤独死だけではなく自殺など、家の中で人が亡くなった事故物件も少なくない。
一見すると倦厭(けんえん)される条件の物件だが、そんな事故物件でも需要が増加しているそうだ。
そこには、近年のある傾向に理由があったーーー。
大熊昭さん:
購入される方の比率が多くなってきたといった形ですかね。1.5倍とか2倍くらいの数字くらいは多くなってきているのかなと思いますね。
近年物価の高騰で新築物件なんかが購入できない場合が多いので、ワケありの物件の安い方にシフトしている傾向は多く見られますね。
物価高の影響で家計が厳しい人は増えている。当然、家を買うハードルも高くなり、中々マイホームに手が届かない人も珍しくない。そんな中でワケあり物件は、お手頃価格で夢が手に入る新たな選択肢といえるのだ。
今回、格安のワケあり物件を「しらべてみたら」、建築上の問題や前の家主の孤独死などでワケありになった複雑な事情が見えてきた。しかしどのような理由でも、安さ優先で選びたいという層にはワケあり物件の人気は高まりつつあることもわかった。
(「イット!」 4月3日放送より)
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