ランドクルーザー、レクサス、アルファード――。トヨタの高級車ばかりを狙った自動車盗が全国で相次いでいる。特にトヨタのお膝元の愛知県では、今年に入って被害認知件数が急増し、全国ワーストに転落。鍵のかかった車を、ほんのわずかな時間で盗み去る手口を追った。
ある朝、車が…
「車、事故にでも遭ったんですか」。3月末のある朝、名古屋市の女性(47)は、自宅を訪れた知人にそう尋ねられ、慌てて駐車場に向かった。愛車「レクサスRX」の前輪を覆う板「フェンダー」がなくなっている。地面にネジが転がり、車体には無数の傷。思わず息をのんだ。
購入時、ディーラーから「盗難に気を付けて」と言われたことが頭をよぎった。すぐに警察に通報し、窃盗未遂事件として捜査が始まった。
駐車場に設置した防犯カメラが、前日の午後8時ごろに駐車場に近づく2人組の姿をとらえていた。1人は通りに立って周囲を見張り、もう1人はレクサスの前輪辺りでしゃがみ込んでいる。作業に手間取ったのか、2人は車の前を行ったり来たりした後、10分足らずで立ち去った。
車のシステム乗っ取る手口
愛知県警によると、2人組は「CANインベーダー」という器具を使った手口で、レクサスを持ち去ろうとしたとみられる。フェンダーをずらし、内部の配線に器具をつなぐことでシステムに侵入し、ロックを解除したり、エンジンを始動したりできる。操作は簡単で、使いこなせば10分以内で車を盗むことができ、この手口による盗難被害は近年急増している。
警察庁によると、自動車盗の被害認知件数は、ピーク時の2003年以降は減少傾向にあったが、22年からは増加に転じている。特に被害が多いのは茨城、千葉、埼玉、神奈川、愛知の5県で、全体の半数以上を占める。23年の愛知県の被害認知件数は698件で全国で2番目に多く、今年は5月末時点で368件(前年同期比113件増)と全国最多ペースだ。
狙われるトヨタの高級車
特徴的なのがトヨタのランドクルーザー、プリウス、アルファード、レクサスRX、レクサスLXの5車種に集中していることだ。今年5月末時点で、愛知県内で盗難被害に遭った約7割がこれらの車種だった。
しかし、なぜトヨタの高級車や人気車種ばかりが狙われるのか。
捜査幹部によると、車を解体して部品を売りさばいたり、車をそのまま転売したりするなど、車種によって盗む目的も異なる。ただ、「トヨタ車というだけで国内外で需要が高い」という。
また、日本損害保険協会の担当者は「トヨタというブランドに加え、未舗装の道路でも運転しやすいなど性能面でも高い人気がある。海外でも売買がしやすい理由の一つではないか」と指摘する。
盗難車の多くは「ヤード」と呼ばれる作業場で解体され、国内外で転売されている。それらの収益は犯罪組織の資金源になっていくケースもあるという。
愛知県警は6月、盗難車のランドクルーザーなどを保管したとしてヤード経営者ら7人を盗品等保管容疑で逮捕した。海外に不正輸出し、転売しようとしていたとみられる。
盗難被害、防ぐためには
被害を防ぐために、県警はトヨタ自動車に対し、防犯性の高い車両や新たなセキュリティーシステムの開発を働きかけてきた。一方で、利用者にはハンドルロックなどのほか、駐車スペースの防犯カメラ設置、防犯性の高い電子キー「イモビライザー」の追加導入など対策の組み合わせを呼び掛けている。
県警生活安全総務課の中込光雄次長は「(被害が集中している)5車種は特に、セキュリティーをアップグレードすることを検討してほしい」と訴える。
名古屋市の女性宅からレクサスRXを盗もうとしたグループは、今も逮捕に至っていない。女性は車が手元に残っただけでも良かったと思う一方で、「『また盗みに来るのでは』『今度は危害を加えられるのではないか』という怖さを感じる」と話している。【田中理知、塚本紘平】
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