内閣府の最新の報告によると、様々な生きづらさを抱えるなどしてひきこもり状態にある人の数は、2022年度の調査で全国では推計146万人と過去最多を更新している。

岩手県内の最新データは、県が独自に調査した2018年のもので1616人とされているが、実際のところ全国の最新データを反映すると2024年7月10日時点では増加している可能性があると言える。

こうした中「ひきこもり」をネガティブなものとして捉えるのではなく、ありのままで過ごせる居場所を提供することで新たに活躍の場を作ろうとしている人たちがいる。

北上市にある「ワラタネスクエア」は、生きづらさを抱えて家にひきこもっている人や子どもが不登校だった経験のある親など、様々な悩みを抱える人たちが誰でも自由に訪れることができる場所だ。

利用者
「もしかしたら自分を何か変えてくれるかもしれない人と、出会える可能性がある」
利用者
「分かち合える仲間というか、分かってくれる人がいる場所」

施設の中では本を読んだり会話をしたり、思い思いの時間を過ごしている。

ここでのルールは1つ「相手のことを否定しない」。

北上市の委託を受けてオープンした2022年から延べ4997人が訪れている。(2022年4月~2024年6月)

施設を運営する北上市の後藤誠子さん(56)も、過去に息子の不登校とひきこもりで悩んでいた一人だった。

北上笑いのたね事業所所長 後藤誠子さん
「無理やり学校に連れて行こうとしたり、口を開けば『何で学校に行かないんだ』とか、朝から晩まで何で何でとずっと聞いていて、鬼みたいな本当にひどい母親だった」

そんなある時、息子から言われた一言で考え方が変わったという。

北上笑いのたね事業所所長 後藤誠子さん
「『俺みたいな子どもが生きていてごめん』と謝られた。学校や仕事に行かない問題は息子の、別の人間の問題。その問題を私がどうこうできることではないと気が付いた」

後藤さんはまず自分の子どもが行ける場所を作ろうと、5年前の2019年に同じ悩みを抱える仲間と任意団体「笑いのたねプロジェクト」を立ち上げた。

そして市内の一角に最初の「ワラタネスクエア」を月に1回オープン。
徐々に口コミで広まって利用者が増えたことで、2022年からは北上市の委託事業となった。

現在(2024年7月)は、週に5回利用者を受け入れていて官民一体で取り組んでいる。

今では息子の匡人さんもスタッフの一員として一緒に働いているほか、多くの人の大切な場所になっている。

♪=心折れた人が もう一度勇気を持つような
♪=青空のような居場所

ギターを弾きながら自ら作詞作曲した歌を歌う、中野寛人さん(37)。
中野さんはこれまで仕事に馴染めず、20回ほど転職を繰り返していた。

利用者 中野寛人さん
「自分に合う仕事が分からなかった。周りからは『何で頑張れないんだ』みたいになるし、結構きつかった」

たびたび環境が変わったことなどが影響し統合失調症と診断され入院。退院後も岩手の実家でひきこもっていたという。

日々物足りなさを感じていた時にテレビで見て興味を持った「ワラタネスクエア」の存在。
1年半前足を踏み入れたところ、人の優しさにふれて心が落ち着いてきたと中野さんはいう。

中野さんは「ここではなぜか才能を認めてくれる瞬間があるので、ありがたく思っている」と話す。

居心地の良さから今ではスタッフとして利用者の話し相手になったり、事務の仕事にも挑戦している中野さん。
特技のギターを披露する時間が生きがいだと話す。

利用者 中野寛人さん
「涙流してくれる人がいる、僕の歌で。それが本当にうれしい。歌をこれからも作ってもっと元気に暮らせたら」

県内ではこうした居場所づくりが広がりを見せている。

2024年4月には奥州市の委託を受けて「ワラタネスクエア奥州」がオープン。
木造2階建ての一軒家を借りていて、家のようなアットホームな雰囲気が特徴だ。

後藤さんは、こうした場を通して世の中のイメージを変えていくことを目指している。

北上笑いのたね事業所所長 後藤誠子さん
「仕事に行かせよう、学校に戻そうではなく、本当に『あなたのままでいいよ』と世の中全体が柔らかい感じになっていったら、みんなが生きやすくなるのではないか」

何かしてもいいし、何もしなくてもいい。
そんなありのままでいられる空間が、ここにある。

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