トランスジェンダー女性(右)に手を合わせる妻(左)は言う。「家族になるには性別よりどういう人かが重要」=京都市伏見区で2024年7月12日午後3時20分、水谷怜央那撮影

 思いがけないカミングアウトは、日常の至るところに潜んでいる。

 めがねを作り替えるため、女性が処方箋を見せると店員が言った。「これ、旦那さんのですよね」

 なぜ、処方箋には性別が書かれているのだろうか。めがねを作り直すのに性別は関係ないはずと思う。「私、本人ですけど」

 銀行の窓口でも、口座手続きで同じ説明をした。投票所でも。そうした説明を重ねることに、屈辱感が募る。

 身分証明書に書かれている「男性」と一致するようにあえて低い声で話すことさえある。「説明せずに楽だから、でも…」

 京都市内で妻と暮らす50代のトランスジェンダーの女性が、戸籍上の性別を男性から女性に変更することを求め、16日に家事審判の申し立てを京都家裁にする。

「非婚条件は憲法違反」を訴え

取材に応じる申立人のトランスジェンダー女性(右)と妻(左)=京都市伏見区で2024年7月12日午後3時18分、水谷怜央那撮影

 法律上の男女として結婚した人に、戸籍上の性別変更を認めない性同一性障害特例法の「非婚条件」は憲法に反する、と訴える。「(立法での解決を)もう待っていられない」

 女性は現在、2015年に結婚した40代の妻と生活している。結婚前から性別に違和感があることは妻に伝えていた。

 「好きになるのは男性だけど、家族関係を結ぶには、性別よりどういう人かが重要」。そう口にする妻に背中を押され、戸籍上の名前を女性に変えた。周囲からは女性と扱われ、自身も女性として過ごしてきた。

 戸籍上の性別を変更することを可能にする特例法では、その要件のひとつを「婚姻をしていないこと」としている。非婚要件と呼ばれ、この要件を満たすためには、妻と離婚することを強いられることになる。

 もしくは、結婚を継続して意に沿わないカミングアウトを甘受し続けるしかないのが実情だ。

 特例法が定める非婚要件の違憲性を巡っては2020年3月、最高裁が「合理性を欠くものとはいえず、憲法13条などに違反しない」と判断した。異性間にしか結婚が認められていない以上、秩序に混乱が生じる、というのが理由だ。

 ただ取り巻く状況は変わりつつある。21年3月以降、同性同士のカップルの法律婚を求める訴訟が全国各地で展開され、計7判決中、6判決が同性カップルが法的保護を受けられていないことについて違憲性を指摘した。

 女性側代理人の1人の水谷陽子弁護士は「同性婚が認められないと特例法の非婚要件は変わらない、と諦めている当事者は多い。今回の申し立てで、結果を勝ち取れば同性婚の解決にもつながるだろう」と期待する。

 女性は予期せぬカミングアウトを求められる日々を、「自分が国から否定されている」とも感じてきた。「憲法24条では『婚姻は維持されなければならない』とある。これを崩してまで非婚要件を残すべきなのか」。審判ではそうした現状に疑問を呈すつもりだ。【水谷怜央那】

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