死亡事故があったオーケー東伏見店のエスカレーターを調べる関係者(奥)ら(6月、東京都西東京市)=共同

高齢者のエスカレーター事故が後を絶たない。6月には東京都のスーパーで80代女性が転倒して死亡する事故が起きた。民間調査では60歳以上が全体の46%を占め、身体能力や反射速度の低下が背景にある。専門家は「今までより速いと感じるようになったら注意のサイン」と指摘する。

6月12日午前10時20分ごろ、東京都西東京市にあるスーパーの地上1階から地下1階に下るエスカレーターで、80代女性が転倒した際にエスカレーターの手すりと床の間に首を挟んだ。女性は搬送先の病院で死亡が確認された。

警視庁田無署によると、女性は手押し車を自身の1段下に置いており、降りる際に手押し車を持ち上げようとした際にバランスを崩して転倒したとみられる。

高齢者のエスカレーター事故は相次いでおり、3月にもJR水戸駅(水戸市)でエスカレーターに上着が巻き込まれ、70代男性が死亡した。

一般社団法人日本エレベーター協会(東京・千代田)の調査によると、2018〜19年の2年間で発生した事故件数は1550件で、被害者が60歳以上だった事例は723件と約46%を占めた。

同調査においても危険性が分かったケースの一つが手押し車の使用時だ。手押し車を使用している際の事故は18〜19年で51件発生している。使用中は両手がふさがって手すりを持てなかったり、乗降口で段差を乗り越える時に持ち上げられなかったりして、転倒する恐れがある。

東京消防庁によると、20年に都内で起きたエスカレーター事故では1069人が搬送され、65歳以上が全体の70%超を占めた。高齢者の場合、身体能力の低下により乗り降りのタイミングを逸することが背景にあるとみられる。

商業施設では対策を強化する動きが広がる。

西東京市の事故があったスーパーを運営するオーケー(横浜市)は対策としてベビーカーや手押し車などを乗せないよう呼びかけるポスターを掲示。乗降時の注意を促す音声案内も始め、エスカレーター付近の従業員の巡回を増やした。

松坂屋高槻店(大阪府高槻市)は2015年ごろからエスカレーターを低速で運行している。転倒事故が多発したことを受け、設備の交換時に速度を通常の約3分の2の速さに設定にした。

担当者によると、低速運行の前は月2件ほど事故が発生していたが、実施後は半年に1件ほどに減った。当時は利用者から「遅すぎる」という声も寄せられたが、「転倒防止のため低速運転中」というポスターも掲示し理解を得るよう努めた。

エスカレーターの安全利用に詳しい文京学院大の新田都志子名誉教授(消費者行動)は「エスカレーターに乗った時に今までより速いと感じるかどうかが、事故に遭う危険性を判断する一つの目安だ。速く感じた時や手押し車を使用する時はエレベーターを利用したほうがよい」と話す。

スーパーなどの施設はエレベーターが奥にあり、利用者が位置を認識しにくい場合が多い。同名誉教授は「事故防止に向けてエレベーターの位置の分かりやすい表示や、従業員による場所の案内など施設側も対策を充実させる必要がある」と訴える。

(斎藤美久)

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