名古屋地裁=名古屋市中区で、川瀬慎一朗撮影

 「地方自治の運営を揺るがしかねない悪質な犯行」。大村秀章・愛知県知事のリコール(解職請求)運動を巡る署名偽造事件で、署名活動団体の事務局長を務めた元県議、田中孝博被告(62)を懲役2年、執行猶予4年とした19日の名古屋地裁判決は、田中被告を事件の「首謀者」と認定し、無罪主張を一蹴した。

 長い髪を後ろに結び、金色のネクタイと黒色のスーツを身につけていた田中被告は、一礼して法廷に入室。判決を告げる大村陽一裁判長を、身じろぎせずじっと見据えていた。

 田中被告は2020年10月下旬、佐賀市内でアルバイト3人に有権者71人分の署名を代筆させ偽造したとして、次男と広告関連会社の元社長=いずれも有罪判決が確定=とともに起訴された。

 公判では署名の偽造行為について争いはなく、争点は「署名簿や関係する証拠収集の違法性」と「リコール成立の意図の有無」の2点に絞られた。

 弁護側は、県選管による署名調査や、署名簿の返還請求の拒否は「犯罪捜査を目的とした違法な行政調査であり、違法に収集された証拠だ」と主張。署名の代筆については「リコール運動が『惜敗』だったと演出するため」とし、虚偽のリコールを成立させる意図はなかったと訴えた。

 これに対し、判決は「(県選管の対応は)直接請求制度の適正な運用を目的としていたことに矛盾はない」と判断。また、名簿業者から購入した名簿を使い、必要な法定署名数約87万筆に匹敵する署名の偽造を共謀者に依頼していたことなどから「リコール成立を意図して署名偽造に及んだことが強く推認できる」と結論付けた。

政界進出という動機「利己的で厳しい非難」

 大村裁判長は「露見されにくいように遠方の施設を確保するなど組織性、計画性が認められる」とし、「リコールの会の高須(克弥)会長の歓心を得て政界進出の足場を作ろうなどと考えた動機も利己的で厳しい非難に値する」と断じた。

 公判は21年9月の初公判以降、争点や証拠の整理のため2年以上中断。田中被告が事件について自ら語ることはほとんどなかったが、判決前の最終意見陳述で「研さんを重ね、改めてまつりごとの活動を行いたい」と政界復帰に意欲を示していた。【道下寛子】

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