血糖値を下げるインスリンが生活習慣の乱れとは無関係に分泌されなくなる「1型糖尿病」の患者8人が、障害基礎年金の支給を不当に打ち切られたなどとして、国に処分の取り消しを求めた訴訟の控訴審判決が19日、大阪高裁であった。本多久美子裁判長は8人の請求を退けた1審大阪地裁判決を取り消し、全員を支給対象と認定した。国の障害認定基準の見直しは認めず、8人の症状から個別に判断した。
8人はいずれも未成年で発症。平成12~26年に障害等級2級に認定され、年金を受給していた。しかし、28年までの審査で年金支給対象外の3級に変更された。
29年11月に支給再開を求めて大阪地裁に提訴。31年4月の地裁判決は、支給停止の明確な理由を示さなかった国の手続きを違法として処分を取り消した。国は判決の約1カ月後、改めて支給停止処分を通知したため、再び提訴していた。
2級の認定に明確な基準はなかったが、今回の訴訟の1審判決は障害全般の認定基準に照らし、「独力での日常生活が極めて困難で、労働により収入を得ることができない」状態を2級の基準に設定。就労歴などを踏まえ、1審の原告9人のうち1人のみがこの基準を満たすとしていた。
これに対し本多裁判長は、そもそも国民年金法の施行令が、2級について「日常生活が著しい制限を受ける」と定めていることに注目。1審より基準を広く設定した上で、日常生活での血糖コントロールの負担や、高血糖・低血糖への不安を常に抱え、介助が必要なこともあるといった状況を踏まえ、8人全員の障害程度が2級に該当すると判断した。
患者「病気の大変さ認めてくれた」
「長い闘いで、くじけそうになったこともたくさんあった。諦めなくてよかった」。1審判決から一転、原告全員を救済した大阪高裁判決を受け、原告の一人、滝谷香さん(41)=大阪府=は、判決後の記者会見で安堵(あんど)の表情を見せた。
滝谷さんは5歳で発症。インスリン注射などで血糖値をコントロールしてきた。低血糖で動けなくなることも少なくなく、対応を間違えれば死にもつながる。自宅にカメラを設置し、ありのままの生活を撮影した映像を裁判所に提出した。
最初の提訴から6年以上を経て、高裁判決は患者たちの日常生活が「著しい制限を受ける」と認定した。滝谷さんは「やっと病気のことを認めてくれた」と喜んだ。
1型糖尿病は成人になると治療費の公的助成がなくなり、月数万円の医療費が自己負担となる。生活の困窮で十分な治療を諦める患者の存在も指摘される中、弁護団長の川下清弁護士は、障害認定のハードルを下げた高裁判決について「全国の症状の重い患者に、(年金受給の)道を開く可能性がある」と強調した。
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