塩漬けされたふなのえらから塩を洗い流す記者(右)=滋賀県近江八幡市沖島町の沖島で2024年7月21日午前9時50分

 「人生観が変わるよ」。初めてのふなずし飯漬け体験で訪れた琵琶湖に浮かぶ沖島(滋賀県近江八幡市沖島町)で、一緒に参加していた三日月大造知事から声を掛けられた。食べることが何より好きな私。その言葉でワクワクが倍増した。【飯塚りりん】

 ふなずしは琵琶湖で取られて塩漬けされた子持ちのニゴロブナなどの魚と米を漬け込み発酵させた県の郷土料理。食べたことはあったが「酸っぱくて……」とあいまいな印象しか残っていなかった。人生観を変えるまではいかないまでも、おいしいふなずしを食べたいというのが体験参加の動機だった。

 最初の作業は塩漬けされたふなを「磨く」こと。魚料理では耳慣れないが、まさに言葉通りだった。

 ふなの腹の中までぎっしり入り込んだ塩をえらの間から洗い流す。腹の中に残された卵まで流してしまわないことが肝心。次はたわしを使ってふなの表面をこすった。皮がむけないような絶妙な力加減が必要で、小さな子供の手を握るような気持ちで作業した。さらに、指の腹を使ってうろこを一つ一つ取り除いた。皮をこすり、うろこを取ることで雑味がなくなる。磨き上げたふなは青白く光って美しかった。

塩を抜き、洗濯ばさみで干されたふな=滋賀県近江八幡市沖島町の沖島で2024年7月21日午前10時38分

 輝くふなを洗濯ばさみを使って干す。キッチンペーパーで軽く水分を拭き取り、ふなの口、えらを全開にして尾っぽからつるした。ふなの口を開くのに鼻があたりそうなほど近くで見ていると「可愛い顔をしているな」と思った。

 干している間、沖島漁協女性部「湖島婦貴(ことぶき)の会」のみなさんが作ってくれたお弁当をいただいた。ビワマスのお刺し身、子アユの天ぷらやつくだ煮に舌鼓を打ちながら、私の目は大皿に盛られたふなずしにくぎ付けだった。一口ほおばる。思ったのは「記者の修業が足りない」だった。

臭みはまったくない

 身構えていた臭みはまったくない。酸っぱさ、しょっぱさ、甘さ……。さまざまな味覚が優しく混ざり合う深みのある味。だが、それをうまく表現できない。情けなさもあったが、同時に私が手がけたふなもこんな味になるのだろうかと胸が弾んだ。

おけの中に敷き詰められるふな=滋賀県近江八幡市沖島町の沖島で2024年7月21日午後1時10分

 腹ごしらえを終えると、おけでふなを米に漬ける工程に入った。まずは空気が入り込まないようにふなの腹と頭に米をぎゅうぎゅうに詰め込む。か細かったふながふっくらとして愛らしかった。

 おけの底に米を2~3センチの厚さで敷き、ふくれたふなをぴったりと並べる。米とふなを交互に重ねていく。ふなの上に米を敷いていると地元の方から、「全身の体重を掛けて押すんや。『おいしくなあれ』と愛情を込めて」とアドバイスされた。愛着の湧いてきたふなに「窮屈そうだな」なんて思いながら力を込めて手のひらでぎゅっと押し込んだ。

 「命をいただく」――。普段忘れがちな言葉がふいによみがえった。

 おけにふたをし、ふなの姿はみえなくなった。これまでたくさん食べてきた琵琶湖の魚。その命に改めて感謝した。

 漬けたふなは沖島で約4カ月間、保管される。沖島から戻るフェリーの中で取材したことのある「びわ湖魚グルメ」のチラシを見つけた。生産量、流通量の少ない湖魚の知名度を上げようと県が取り組む新たなご当地グルメで、県内の30店舗で45品が提供されている。ふなずしは「東海道街道商い六代 からっ風」(大津市)でお茶漬けとして味わえる。

 たくさんの人に「命にごちそうさま」と思いながら湖魚を堪能してほしいと願う。

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