振り子の重りとして使うビー玉に穴の開いたビーズを取り付けるシニアボランティア=横浜市磯子区のはまぎんこども宇宙科学館で2024年4月4日午後2時3分、松本光樹撮影
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 シニアの力で子どもたちに科学の面白さを伝えよう――。「はまぎんこども宇宙科学館」(横浜市磯子区)ではシニアボランティアが活躍している。前職が技術者や大学教授という、その道の「プロ」も多い。的川泰宣館長(82)は「人生のベテランであるシニアの力で『地域の交流拠点』になっている」と話す。

 4月上旬、親子連れであふれかえっていた春休みのある日。照明を落とした部屋で、男の子が蛍光塗料を加えたスライムを手でこね、泥遊びのように楽しんでいた。「まだここにもついてるよ」。ボランティアの男性が、遊び終わった男の子の手をブラックライトで照らし、残ったスライムを丁寧に取り除いた。

 同館ではボランティアが来館者と接するのが日常だ。70代を中心に約80人が登録しており、職員(約50人)より多い。

 子どもたちの笑い声で包まれる展示室と壁1枚を隔てた部屋では、ボランティアたちがイベントなどの準備に精を出していた。

 この日準備していたのは、周期の違う複数の振り子を並べた「ペンデュラムウェーブ」。精密に作れば、時間の経過とともに振り子がさまざまな形を描く装置だ。ボランティアたちは眼鏡型拡大鏡をかけ、重りとして使うビー玉を糸でつるせるようにするため、穴の開いたビーズを慎重に接着させていた。

ボランティアがこれまでに試作した工作キットなどが収納されている部屋=横浜市磯子区で2024年4月4日午後2時22分、松本光樹撮影
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 部屋の隅で真剣な表情で箱を組み立てていたのは、ボランティアの一人、伊藤幹生さん(79)だ。箱の正体は「カラフルボックス」と呼ぶおもちゃの分光器。分光器は光をレンズに通すことで波長の異なるカラフルな光に分けるものだ。

 「最初は100円ショップのレンズを使ってたんだけど廃番になっちゃったんだよ」(伊藤さん)。ボランティアは工作のアイデア出しや材料の入手も任されていて、材料費などは後日科学館に請求するという。

 伊藤さんは大手光学メーカーに勤務し、天体望遠鏡の開発などに関わった。定年退職後の2016年に地域のフリーペーパーでボランティアの募集を見つけ応募した。「人生をかけて取り組んできた分野の知識をこんな形で生かせるのはうれしい」。子どもたちが工作をしながら目を輝かせる様子を見ると「やってよかったなと思う」という。

 「『家にいちゃ邪魔だから』と妻が応募した」。そう振り返るのは10年以上ボランティアを続ける村上敬一さん(76)。大手製造会社で勤務し、物質の構造を詳しく調べる大型放射光施設「スプリング8」(兵庫県)の建設にも携わった技術者だ。

 イベント参加者のアンケートで「楽しかった」といった感想を読むたびに、やりがいを感じるという。「いつやめようか。そろそろかな」。そう語る横から仲間に「村上さん、最初は『3年でやめる』と言ってたんだよ」と言われると、照れくさそうに笑った。

 同館がボランティアを初めて募集したのは13年のことだ。当時、開館から30年近く経過し、展示物の老朽化が目立つようになり、来館者数も低迷していた。

ボランティアが作った展示の一つ「三原色の木」=横浜市磯子区のはまぎんこども宇宙科学館で2024年4月4日午後2時31分、松本光樹撮影
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 展示の更新には多額の費用がかかる。「ハードに頼るのではなく、ソフトで勝負しよう」。12年に着任した的川館長は実験教室など参加型のイベントを増やす方針を決め、その担い手としてボランティアを募った。南側の快適な部屋を「ボランティア室」とし、展示室のうちいくつかの部屋を「教室」に変えた。

 多いときでイベントを1日20~30回開催し、年1000回を超えた年もある。今やシニアボランティアが支えるイベントが同館の目玉の一つになっている。

 展示する工作物や工作キット、説明資料などもボランティアが手作りする。1期生で、現在は同館の学術顧問を務める斎藤和男さん(76)は「ボランティアにある程度裁量があり、のびのびできるから面白いものができる」と話す。

 斎藤さんは元山形大教授。地質の年代を調べる研究などをしてきた。「ボランティア仲間や来館者など、大学にいたときには話すことがなかった人たちと交流ができる」と語る。

 シニアボランティアの力は数字にしっかりと表れている。12年度に23万人台に落ち込んでいた来館者数は、新型コロナウイルス禍前の18年度に33万人超と過去最高を更新した。

 「来館する子どもたちにも、ボランティアを務めるシニアにもいい影響が出ている」(的川館長)。来館者との交流をきっかけに、自分の子どもや孫とのコミュニケーションの機会を増やすようになったボランティアもいるという。的川館長は「経験を生かし、自分の人生を楽しみながら、次世代の役にも立てる。超高齢時代に合ったシニアの活躍の場になっている」と話す。【松本光樹】

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