人けの少なくなった被災地に頼もしい存在が帰ってきた。東京電力福島第1原発事故に伴う帰還困難区域だった福島県浪江町の津島地区にある双葉署津島駐在所が31日、約13年4カ月ぶりに再開した。山あいの津島地区には事故当時に1460人が暮らしていたが、現在の居住者は18人だけ。安全を守るために常駐する警察官が19人目の住民となった。
着任したのは宮下銀次巡査長(40)。東日本大震災直後の2011年春に警察官として採用され、高速隊など交通畑で10年以上勤務。今春から浪江分庁舎で働き、毎日のように同庁舎から片道30分かけて津島地区を巡回。田植えや草むしり、イベント参加など地域の行事にも積極的に顔を出してきた。県内に妻子がおり、単身赴任で働く。
宮下巡査長は開所式のあいさつで涙ぐみながら、「帰還・移住した住民や津島に通う人と接し、困難を乗り越えて前に進もうという意思を感じられた。私も治安面から復興を支えたい」などと抱負を語った。
駐在所があるのは、津島地区の目抜き通りの入り口。だが、通りを歩く住民の姿はなく、家屋の解体された空き地や荒廃した空き家も目立つ。宮下巡査長は「帰りたくても帰れない住民もいるが、胸を張って『安全安心な地域ですよ』と伝えられたら。駐在所の明かりをともすので、気軽に立ち寄ってほしい」と話している。
山あいの津島地区は原発事故で全域が帰還困難区域となった。その後、役場支所や商店のある地区の1・6%が特定復興再生拠点区域(復興拠点)に選ばれて除染が進み、23年3月末に避難指示が解かれた。ただ、多くの住民が避難先に定着し、居住者は10世帯18人にとどまる。町が整備した町営住宅は8月から全10戸が埋まるが、商店や診療所、学校、ガソリンスタンドなどは再開していない。
津島地区では、解除前から双葉署浪江分庁舎の署員らがパトロールに当たってきた。無人だった駐在所を改修し、住み込みの警察官を配置することで、住宅の戸別訪問や空き家のパトロールに当たってもらう。解除地域では不法侵入や不法投棄などの事件も起きている。【尾崎修二】
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