特集は能登半島地震を生き延びたキノコです。長野県飯綱町のキノコ生産会社は能登の工場が被災してダメージを受けましたが、そこで生き延びたものを「奇跡のぶなしめじ」と名付けて売り出そうとしています。果たして、その味は?


■大小不ぞろい「奇跡のぶなしめじ」

出荷に向けて次々と運ばれてくる「ぶなしめじ」。通常、ある程度、サイズはそろっていますがよく見ると、大小まちまちです。

ここは飯綱町に本社を置く「ミスズライフ」の工場。「カットぶなしめじ」を専門に、県内外8つの工場で、年間約9700トンを生産しています。


さきほどの不ぞろいの「ぶなしめじ」。

実はー。

ミスズライフ生産本部・小林光一 本部長:
「この両サイドにあるものが能登からこちらの工場に移動して、試験的に発生させているキノコです」

石川県・穴水町にある「能登工場」から持ち帰って育てた「ぶなしめじ」。会社は「奇跡のぶなしめじ」と名付けて売り出そうとしています。


■元日の地震で生産ストップ

2024年1月1日ー。

元日に発生した能登半島地震。ミスズライフの能登工場がある穴水町は最大震度6強を観測。工場の従業員は全員、無事だったものの、キノコを培養・生育する瓶約280万本が散乱するなどの被害があり、生産がストップしました。

小林本部長は地震から4日後に現地入りし、泊まり込みで復旧作業に当たりました。

ミスズライフ生産本部・小林光一 本部長:
「パレットで3段積んである上段はほぼ崩れてセンターの通路に崩れていた。正直言って呆然とした。能登工場の従業員は『どうしていいかわからない』と言っていたのを覚えている」


■生き延びた「菌糸」で育つかテスト

約1カ月後、片付けが進む中、あることを発見しました。散乱した菌の培養瓶のうち、ふたが開いてしまったものは乾燥して「菌糸」が死んでいましたが、開いてなかった瓶の菌糸はしっかり生きていたのです。

その数は全体の6割に当たる約120万本。一部の冷却ファンは故障したものの、工場は停電を免れ、温度と湿度が保たれていたことが幸いしました。

ミスズライフ生産本部・小林光一 本部長:
「震災を耐え抜いたと、その中でもキノコは生きてましたと、被災した皆さんに少しでも力になったり、励みになればいいなと思ってテストしようと」


復旧作業が一段落した5月中旬。能登工場から持ち帰った菌で「ぶなしめじ」が育つかテストしてみました。通常、菌つけから出荷までは100日前後で、菌を育てる「培養」にかける期間は約70日。

一方、能登工場の培養瓶は被災後、放置されていたため培養期間は200日余りと通常の3倍になっていました。


生育室が復旧していない能登工場に代わって、飯綱工場で瓶約3000本の生育を進めたところ、無事、成長することがわかりました。

ただ長期間の培養の影響か、大ぶりなものが目立ち、大きさもバラバラ。生育室に移されて10日後の様子を通常のものと比べると違いは一目瞭然です。


■うま味成分1.5倍!商品化へ

しかし、良いことも見つかりました。県工業技術総合センターで検査したところ、うま味成分であるグルタミン酸やアラニンが通常の約1.5倍含まれていたのです。

震災を生き延び、しかもうま味が増しました。

ミスズライフは「奇跡のぶなしめじ」として、売り出す方針を固めました。

ミスズライフ生産本部・小林光一 本部長:
「震災の中を生き残ったキノコというので本当に奇跡だと感じていますし、生き物の生命力はすごいんだというのを改めて感じた」


■通常のと食べ比べてみると?

2回目のテストで育てた「奇跡のぶなしめじ」。メディア向けに「奇跡のぶなしめじ」と通常のぶなしめじの食べ比べが行われました。

通常のぶなしめじと食べ比べてみるとー

(記者リポート)
「まずは通常のぶなしめじから、次は『奇跡のぶなしめじ』。食感が違います、『奇跡のぶなしめじ』の方は、繊維質でかむ度にぶちっぶちっといったキノコの繊維を感じます。味は正直よくわかりませんでしたが、香りが『奇跡のぶなしめじ』のほうが強いと感じました」


小林本部長もー。

ミスズライフ生産本部・小林光一 本部長:
「うん、うまいっす。長い期間熟成しただけあって風味が強いと思う。食感も普通のものよりしっかりしている。ここまで普通においしいのであれば、皆さんに食べてもらって間違いないと思うので、それに向けて全力でいきたい」


■「奇跡のぶなしめじ」商談中!

キノコのプロも太鼓判。ただ大きさが不ぞろいだと調理がしづらく、そもそも栽培コストは3倍以上になり、レギュラー商品化は難しいそうです。

現在も能登工場に残る120万本近くについては、生育室の復旧にめどが立ち、そのまま能登で育て、出荷する予定。現在、取引のあるスーパーなどと商談を進めています。

ミスズライフ生産本部・小林光一 本部長:
「どうやって皆さまにお届けできるか今検討中なんですが、(被災した)その地域はもちろんのこと、首都圏、長野県の地元だったりで食してもらい、何かこう感じるものとか思いがあれば私としてはうれしい」


震災を生き抜いた「奇跡のぶなしめじ」。お盆明けには、能登工場で育てたものを地域住民にふるまうことも計画しています。(※10月には通常の生産を再開)

ミスズライフ生産本部・小林光一 本部長:
「まだ仮設住宅や、自宅が半壊とかいう状態でお住いの人もたくさんいると聞いている。その中で毎日の料理の食材として使っていただいて、食べていただいて、同じ能登半島の穴水という町で生き残ったキノコだということで、何かこれからの復興の励みになってくれれば私も一番うれしい」

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