全国の10~20代の男女16人が6日、気候変動の悪影響は若い世代の人権を侵害しているとして、二酸化炭素(CO2)排出量の多い火力発電事業者10社を相手取り、CO2排出を削減するよう求めて名古屋地裁に提訴した。世界では政府や企業に気候変動対策の強化を迫る訴訟が相次いでいるが、弁護団によると国内で全国規模での集団訴訟は初めてという。
原告は名古屋市の中学3年の男子生徒や、東京都や奈良県などの大学生ら14~29歳の若者16人。一方、被告は東京電力と中部電力が折半出資する発電会社JERA(ジェラ)や東北電力、関西電力、九州電力、神戸製鋼所など国内で火力発電事業を行う企業計10社。
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2023年公表の統合報告書で「世界の平均気温を産業革命前から1・5度上昇に抑える」という世界共通目標を実現するには、35年までに19年比で60%減らす必要があるとしている。日本の温室効果ガス排出削減目標の基準年である13年度比では66%減に相当する。
訴状では、19年度の被告10社のCO2排出量は、日本のエネルギー起源の排出量の約3割に当たると指摘。排出量の多い石炭火力発電を50年まで運用し続けようとしており、今後も地球温暖化に寄与して危険な影響をもたらしていくとして、1・5度目標実現の道筋に整合するよう、CO2排出量を19年度比で30年までに48%、35年までに65%削減することを求めている。
提訴後、原告らは名古屋市内で記者会見を開いた。名古屋市の中学3年の倉田那生(なお)さん(14)は「この暑さは異常です。プールが好きだけれど暑くて泳げなくなっています。プールやスキーで遊ぶ自由を取り戻したいです」と訴えた。
弁護団は「気候変動で生活基盤が脅かされ、この先も脅威が増すことは明白だ。若者世代の受ける被害は甚大であり、安定した気候のもとで生活する権利の侵害だ」と主張している。
訴状でCO2排出量が最多と指摘されているJERAは「訴状を受領していないためコメントは差し控えさせていただきます」としている。
世界気象機関によると、23年の世界の平均気温は産業革命前の水準を1・45度上回り、観測史上最高となり、今後5年のうちの少なくとも1年は、80%の確率で一時的に1・5度上回るとの分析結果を示している。1・5度目標実現に向けて、各国は25年2月までに新たな排出削減目標を国連に提出することが求められており、日本政府も現在、35年以降の目標の検討を進めている。【道下寛子、田中理知、山口智】
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