大阪地検特捜部が捜査した学校法人を巡る業務上横領事件で、無罪が確定した不動産会社元社長が、捜査に関わった担当検事を刑事裁判で裁くよう求めた付審判請求で、大阪高裁(村越一浩裁判長)は8日、同検事を特別公務員暴行陵虐罪で審判に付す決定を出した。請求を棄却した大阪地裁決定を取り消した。
申立人はプレサンスコーポレーション(大阪市)元社長の山岸忍氏(61)。2021年10月に大阪地裁で無罪判決を言い渡された後、検事らによる取り調べが違法だったとして、付審判請求による刑事手続きと7億7千万円の国家賠償を求める民事訴訟の両面で争っている。
付審判決定が出たのは、大阪地検特捜部に所属していた田渕大輔・東京高検検事(52)。事件当時、山岸氏の元部下=業務上横領罪で有罪確定=の取り調べを担当した。
田渕検事は19年12月8〜9日、大阪拘置所の取調室で机をたたいた上で「有罪ですよ、確実に」「検察なめんなよ」「プレサンスの評判をおとしめた大罪人」と脅迫するなど陵虐行為に及んだとされる。
村越裁判長は決定理由で、田渕検事が「人格をおとしめる侮辱的な発言で、意に沿う供述を無理強いしようと試みていた」と指摘。取り調べには「これまでの威圧的、脅迫的な言動の影響が残っていた」として、山岸氏の請求を棄却した23年3月の大阪地裁決定を取り消した。
地裁決定は、田渕検事が元部下に対し一定時間にわたって怒鳴り、威迫しながら一方的に責め立てたとして、陵虐に当たると認定。一方、こうした取り調べは継続的でなかったなどとして、請求を認めなかった。
代理人弁護士は記者会見し「画期的な判断で刑事司法の歴史が変わると言っても過言ではない」と評価。山岸氏は「公正な判断を頂けた。検察改革の第一歩になることを強く望む」とのコメントを出した。
大阪地検の田中知子次席検事は「個別事件の裁判所の判断についてはコメントを差し控える。今後とも適正な取り調べの実施に努める」とした。
付審判請決定、検察官は今回が初めて
公務員による職権乱用を巡り、告訴や告発をした本人が不起訴処分に不服がある場合、刑事訴訟法は公判を開くよう裁判所に請求できると規定している。請求が認められれば、検察官の起訴と同じ効力を持ち、裁判が開かれる。検察官役は裁判所が指定した弁護士が担う。
最高裁によると、付審判決定は1951〜2022年の間に計22件。うち9件が有罪、13件が無罪や免訴となり確定した。これまで罪に問われたのは警察官や裁判官、刑務官らで、検察官の例はなく今回が初めて。
今回の決定について、元裁判官の水野智幸法政大法科大学院教授(刑事法)は「取り調べの録音・録画が進み、裁判所として違法性の有無を客観的に審理しやすくなったことも請求を認めた背景にあるのではないか」とみる。
今後開かれる裁判について「近年は捜査機関の取り調べに、社会の厳しい視線が向けられている。公開の法廷で検察官の取り調べがどこまで許容されるのか議論されることになり裁判所の判断が注目される」と話している。
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