高校生が運営する子ども食堂がある。主に街頭募金で資金を集め、借りたアパートで月1回開いている。「貧困支援」というイメージを持たれることもある子ども食堂だが、誰が来てもいい。「子どもたちの居場所をつくりたい」という高校生たちの挑戦を見つめた。
食卓囲みおしゃべりを
「折り紙やる?」。5月下旬の日曜日、下町情緒あふれる神戸市長田区の長田神社前商店街。その近くの木造アパートで開かれた子ども食堂「いちばんぼし」で、ポツンと座る男の子に須磨学園高校2年の奥藤(おくとう)大貴さん(16)が声をかけた。
男の子は小学1年生。この日が初参加だった。隣に座った奥藤さんが一緒に色紙を折る。「そうそう、上手やな」。男の子の緊張した表情は徐々にほぐれていった。
兵庫県内の高校生十数人でつくる「学生団体スピカ」は毎月第4日曜に子ども食堂を開いている。この日は小学生と保護者計6人が参加。スタッフの高校生6人がカレーを作り、食事を挟んでおしゃべりやゲームを楽しんだ。
発起人で代表を務めるのは県立長田高校3年の鳥居彩人さん(18)。子どもの貧困問題に関心があり、高校入学後、経済的理由で塾に通えない子どもたち向けに大学生らが開く無償のオンライン塾の活動に参加した。もっと深く子どもたちに関わる支援をしたいと考え、たどり着いたのが子ども食堂だった。
長田区にはボランティアなどが運営する子ども食堂が約20カ所ある。だが長田高校周辺にはなく、学生だけで運営することを目標に、友人に声をかけたり、インスタグラムで呼びかけたりして、2022年8月にスピカを結成した。
貧困支援のイメージが強い子ども食堂。実際はどうなのか。そう考え、メンバーは市内の食堂4、5カ所に見学に行った。いずれも大人を含め希望者はすべて利用できるようになっていた。運営者の一人は「私たちは利用する子どもの誰が貧困にあるのかを把握しているわけではない。しかし、そういった子が来た時に必要な支援をするために活動しているのだ」と教えてくれた。
全国には非課税世帯やひとり親家庭の子どもを対象にした子ども食堂もあるが、貧困支援を前面に出すと、周囲の目を気にして子どもが行きづらくなったり、保護者が行くのを反対したりするケースもあるという。鳥居さんは「困っている子を手助けするためにも、まず来てもらうことが大切だと学んだ」と話す。
無償で高校近くのシェアハウスの一角を使わせてもらう形で、23年5月に食堂を始めた。子どもは無料、高校生以上は200円。LINE(ライン)で予約すれば、誰でも利用できる。
奥藤さんはインスタグラムの募集を見て活動に参加した。学校では生徒会長を務めるが、子ども食堂では赤いビー玉で遊んだことをきっかけに「あかちゃん」と呼ばれ、親しまれている。子ども食堂は、栄養バランスに配慮した食事を提供する所、学習支援に力を入れている所などそれぞれ特徴があるが、「僕たちができるのは一緒になって遊ぶこと。大人の方がやるような支援は難しいかもしれないが、子どもたちの居場所をつくることはできる」と話す。様子が気になる子がいたら行政機関や学校に相談する方針だが、そうしたケースはこれまでにないという。
アパート借りて拠点に
23年11月にはアパートを借りて拠点を移した。未成年の任意団体では契約ができなかったため、メンバーの親の会社が借りて、同じ家賃でまた借りする形をとった。将来は平日にも子どもたちが過ごせる放課後クラブを運営することを目指しており、自前の場所を確保するためだ。
食材費に加え、月額4万3000円の家賃や光熱費などの支払いも必要になったが、23年は隔月ごとの募金活動で約80万円を集めた。鳥居さんは「このペースで続ければ、十分に活動費は賄える」と話す。24年は神戸市の補助金を得てエアコンを設置する予定だ。
メンバーの学校や居住地域はバラバラで、他の部活動もしているため、全員が集まるのは難しい。そのため、打ち合わせはオンラインを活用し、募金や案内チラシの配布、メニューづくりなどの役割を分担している。
メンバーのうち7人いる3年生は受験勉強のため夏までには引退する予定で、活動の継続が課題の一つだが、1年生2人が新たに加入した。今年中に社会的信頼度を高めるため、NPO法人化する計画も進む。
市長田区社会福祉協議会の池本貴子・地域支援課長は、高校生らが22年冬に食堂開設の相談に訪れた時、保健所への届け出や食中毒に備えた保険加入など必要な手続きをアドバイスした。「資金や地域との関わりなどいろんなことをしっかりと考えて運営している。何より高校生が地域の子どもたちへ熱い思いを持っているのがうれしい。メンバーの入れ替わりがあっても、いい形で活動が続いてほしい」と見守っている。【山本真也】
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