学生諸君は夏休みに新しいことにチャレンジしていますか。趣味の合う仲間と活動している人もいるでしょう。あるいは秋学期(後期)からの活動にアイデアを巡らせている人もいるかもしれません。そんなとき先輩たちの体験が活動のヒントになるかもしれません。
専門家に助言を得た
まず取り上げるのは東京工業大学の環境・社会理工学院で学ぶ学士3年生の中村鼓さんです。仲間数人と「学びのポラリス」という任意団体をつくり、ボランティア活動として今春から小中学生の学習支援を始めています。
同団体は、専門家が作成し、「ユーチューブ」で配信している無料の動画を教材に使っています。小学生なら算数、中学生は英語、数学などの複数の科目の教材を使えるように紹介しています。教材選びも大事なサポートです。
小中学生は「学びのポラリス」のサイトを通じて登録手続きなどを行います。その後、動画教材を学びながら、このサイトから質問したり、助言を求めたりできます。中村さんたちは教材の学び方や復習などを助言します。
中村さんはこの活動を始める前に「動画教材の著作権について学び、専門家から助言を受けました。教材を配信しているユーチューバーにも連絡を取って、活動の趣旨などを直接伝え、事前に教材の利用について了解を得た」そうです。
活動を考えた動機は中村さんの大学受験の経験にあります。「能力やヤル気があるのに経済的な事情や生まれた環境が影響して、十分に学べない若者がいる。何か行動したいという気持ちを抱いていた」(中村さん)
今後は活動を続けていくための収入源の確保なども課題になってくるでしょう。中村さんは仲間たちと高校生にも支援活動を広げたいと考えています。
一緒に学び、考える
続いて、私が客員教授を務める立教大学の若者を紹介します。4月から大学院文学研究科で日本語学を専攻する大下由乃さんは「豊島こども大学」の代表を務めました。キャンパスのある東京都豊島区を知る・創る・楽しむことを目的に2007年から受け継がれてきた学生の活動です。
大下さんが活動していたときには、区内の小学3年生から6年生まで約30人が参加していたそうです。約35人の学生が運営に携わり、地域の文化・芸術、スポーツの体験を通じて、子どもたちが学ぶ機会を設けてきたのです。
例えば、豊島区内には日本を代表する著名漫画家が暮らしたアパートがあったことが知られています。現在、「トキワ荘マンガミュージアム」という施設があり、見学できます。子どもたちと同施設を訪れ、地域の文化としての漫画を体験する企画を運営したのです。
大下さんは活動を通じて気づいたことがありました。「子どもたちには大人が考える以上の想像力や吸収する力があります。何かを教えるという姿勢ではなく、子どもたちと一緒に学び、考えることが大事だと感じました」
大事なことも体験したそうです。豊島区や企業など多くの大学外の人々の協力が必要だったといいます。そのためには「活動に参加する学生間の情報共有や問題意識をすり合わせることが重要だった」と振り返っていました。
先輩たちの体験は若者らしい問題意識や好奇心が活動の原動力になることを示しています。自らも学び、発見することが、新たな成長をつかむきっかけになるといえるのではないでしょうか。
いけがみ・あきら 東京工業大学特命教授。1950年(昭25年)生まれ。73年にNHKに記者として入局。94年から11年間「週刊こどもニュース」担当。2005年に独立。主な著書に『池上彰のやさしい経済学』(日本経済新聞出版)、『池上彰の18歳からの教養講座』(同)、『池上彰の未来を拓く君たちへ』(同)、『私たちはなぜ、学び続けるのか』(同)。長野県出身。74歳。鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。