7月の記録的な大雨による山形県で、全半壊や浸水などの住宅被害が739棟(23日現在)と最も多かった酒田市。被災から1カ月を過ぎたが、氾濫した荒瀬川上流域にある集落の生活再建はほど遠い状況だ。それでも住民らは「前を向くしかない」と自宅の片付けを本格化させていた。
酒田市大沢地区の中でも壊滅的な被害を受けた小屋渕(こやぶち)集落。堆積(たいせき)した土砂や流木は最大2メートルにも達し、豪雪地帯で知られる冬場の積雪を超えるほど。被災当初は容易に近付けなかった場所だ。
会社員の相蘇直樹さん(43)は25日、仮住まい先から家族とともに戻り、泥で汚れた家財道具を運び出す作業に追われていた。重機による土砂などの撤去作業は10日間にも及び、奥まった場所にある自宅まで、ようやく車が入れるようになった。
集落は荒瀬川と支流の小屋渕川から押し寄せた濁流にのみ込まれ、避難中に行方不明になった女性1人が亡くなった。
裏口の戸を破って流れ込んだ小石や泥が台所や茶の間など1階を厚く覆いつくしていた相蘇さんの自宅。父孝行さん(73)は「あど(もう)住まれねぇ。まだ起きたらどうする」と肩を落とす。
所有する水田、8ヘクタールの復旧も全く見通せない。住民の中には同様の思いで自宅の再建をあきらめ、集落を離れようとする動きも出ている。
相蘇さんは24世帯58人が集まる青沢自治会に400年以上伝承される市無形民俗文化財「青沢獅子踊り」の保存会長を務める。集落の存続が危ぶまれ、シンボルの伝統芸能も消えてしまうかもしれない現実に直面している。しかし「今は一歩ずつ、目の前のことを片付けていくしかない」と声を絞り出した。
県のまとめでは、23日現在の建物被害は暫定値の戸沢村分300棟を含む約2000棟。酒田、遊佐、戸沢、鮭川の4市町村の8カ所の避難所に183人が避難生活を続ける。仮設住宅は鮭川村と戸沢村で着工し、10月上旬の入居を目指している。酒田市と戸沢村では賃貸住宅を仮設住宅として被災者に提供する方向で、受け付けも始まっている。【長南里香】
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