東京に在住・通勤の女性が結婚を機に地方に移住すれば60万円を支給する――。こんな政府の新制度案が批判を受け、担当相は仕組みの再検討を指示する事態になった。
新制度案は東京一極集中に歯止めをかける狙いだったが、専門家は「異例の仕組みなのに説明が足りない」と指摘。SNS上では「女性の人生をいかに過小評価しているか分かる」など批判の声が相次いでいた。
女性に限り、就業・起業なしOK
政府は2019年、地方への移住を後押しするため、支援金制度を導入した。
東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)から東京23区への通勤者と、23区に住む人が地方に移住した際、単身者に最大60万円を支給している。男女は問わず、移住先での就業や起業が条件となっている。
新制度案は、未婚女性が結婚を機に移住すれば就業・起業しなくても支給する仕組みで、額は最大60万円を軸に調整していた。
未婚女性が地方の婚活イベントに参加する交通費も対象とし、内閣官房は25年度概算要求に関連経費を盛り込む方針だった。複数の市町村を移住対象とするモデル事業としても想定していた。
10代後半~20代、地元戻らず
新制度案の枠組みが報じられると、SNSでは批判的な書き込みが相次いだ。
<差別的ばらまき政策>
<根本的な原因をみていないのでは。気持ちが悪い>
<どうしてお金で人を動かそうとするのか。一極集中の是正になんかならない>
内閣官房は「差別意識はない。地方への移住の流れを加速することが狙いだ」と説明した。
20年の国勢調査では東京以外に住む未婚の15~49歳は、男性約1111万人に対し、女性は約910万人。進学や就職で10代後半から20代で上京した女性は、地元に戻らない傾向が強くなっている。
23年の人口移動報告によると、東京都は転出者より転入者が約6万8000人多く、半数超の約3万7000人が女性となっている。
専門家「説明が足りない」
東海大の岩本泰教授(関係人口論)は、岸田文雄政権は「政策がなぜ必要かについて、説明が足りない」と話す。
新制度案で、支給対象を未婚女性に限定した点について「異例の仕組みなのに、東京への転入超過を防ぐという理由だけでは説明が足りない。多くの人は納得できないだろう」。また、「地方移住では引っ越し代で60万円を超えるかもしれない。支給額の算定根拠も明示すべきだ」と指摘する。
多くの批判を受けたためか、内閣府の担当者は「市町村から『未婚男性も支給対象に』との声があれば、検討する」。自見英子地方創生担当相も30日の記者会見で「移住支援のあり方について、しっかりと中身を検討し直すよう事務局に指示をした」などと述べた。【畠山嵩】
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