北海道の知床半島沖で乗客乗員26人を乗せた観光船が沈没した事故から2年。事故は町の主要産業である観光に大きな影を落としました。

 しかし地元では、再生に向けた取り組みが一歩ずつ進んでいます。

 春の訪れを感じさせる季節となった知床。ハイシーズンとなる5月の大型連休を前に地元の物産を買い求める観光客の姿もありました。

「サケのラー油、珍しいかなと思って買いました」

 「景色がとてもきれい。また7月も来たい。船に乗ってイルカとクジラ見たい」(ともに観光客)

 一方、観光客からはこんな声も。

 「観光船は好きですね。あれば乗りたいけど、ちょっと知床は危ないのかなっていうイメージが前回の事故でわいた」
 
 「正直楽しいイメージかと言ったら、やっぱりあの事故が浮かぶ」(観光客)

 知床の大自然を楽しみたい…しかし、どうしてもあの事故を思い出してしまう…。という声が出るように、爪痕は深く残っています。

 知床は2005年、世界自然遺産に登録。手つかずの大自然に加え野生のヒグマやシャチなどを見られると、コロナ禍以前は年間150万人以上の観光客でにぎわいをみせていました。

 しかし、2年前に起きた観光船の事故以来、マチの観光には影響が続いています。

 40年以上にわたって漁師をしている古坂彰彦さん(65)。事故から約半年後の2022年11月に自分で取った魚介類を提供する居酒屋をオープンしました。

 「偶然です。まさかあんな大きな事故があるとは思っていなかった」(漁師 古坂 彰彦さん)

 古坂さんは事故直後から捜索に参加し、菓子やゲーム機が入った小さなリュックサックを発見。後に亡くなった3歳の女の子のものと分かりました。

 「船が沈み、亡くなるまでの恐怖は相当だったと思う。漁師はみんなそれを想像できるから」(古坂 彰彦さん)

 これまで漁師一筋だった古坂さん。知床の魅力の発信とマチ全体を元気づけたい思いで新たな業種への挑戦をしました。

 オープンから約1年半。客は徐々に増えつつありますが、気がかりなことがありました。

 Q:人の戻りはどうか

 「(観光客は)まだ戻っていないですね。ホテルの方もまだ戻っていないって言っていた」(古坂 彰彦さん)

 地元の観光協会によりますと、年間の観光客の数はコロナ禍前の150万人以上から3割ほど減った状態が続いていて、本来の姿にはいまだ戻っていないのが現状です。


 観光客の減少の影響はほかにも…。知床クルーザー観光船ドルフィンの元船長だった鎌田日出明さん(65)です。

 「こんなことがなかったら今年だってちゃんと営業できていたのに」(観光船の元船長 鎌田 日出明さん)

 3月までドルフィンの船長だった鎌田さん。いまは別の仕事をしています。

 Q:3月末で廃業にした?

 「廃業すると社長が言っていた。今は漁師の船乗っている」(鎌田さん)

 ドルフィンは事故のあおりなどを受け観光船の乗客が激減。

 2023年の売り上げはコロナ禍前の2019年の半分にまで落ち込みました。

 「事故後はお客さんも警戒するというか、結局あの事故以来、ルールを作った。風があると出られない回数も多くなった」(鎌田 日出明さん)

 客に安心して観光船を楽しんでもらおうと事故後、観光協会や小型観光船協議会を中心に安全運航に向けたルールが作成されました。

 運航基準はもともと各社ごとに違いましたが、今回の事故を受けて統一化。港内の波の高さが0.5メートル以上・風速8メートル以上・視界300メートル以下だったら運航しない、原則、単独で運航はしないなどとしました。

 安全に知床の大自然を堪能してほしいと導入したルール。導入後、事故は起きていませんが、一方で出航する回数も減少。夏場の短い観光シーズンをターゲットに運航する事業者には、厳しい状況となりました。

 「俺はここ好きなところだし、素晴らしいところ。毎日そう思って仕事してきたからね。それだけにやっぱりあの事故はものすごく悔しいし、腹立つ」(鎌田 さん)

 観光船の仕事は一区切りとなりますが、鎌田さんは諦めていません。

 「このシャチの動画もね、50本くらいあるんだよ。これがシャチね。船に遊びに来ているんだよ。(客が)ありがとうって言ってくれるときがやっぱりやりがいがある。俺たちもうれしくなる。また観光船の仕事に携わりたいなと思っている」(鎌田さん)

 さらに地元では陸上のツアーも含めた体験型観光をより安全に行えるよう、荒天が予想される場合にツアー中止を要請する事務局を設置することを決定。

 北海道斜里町や観光協会が中心となり、夏場のスタートを目指します。

 事故直後に比べれば着実に回復傾向にある知床のマチ。古坂さんはさらに元気を取り戻そうと知床の観光をアピールし続けたいと考えています。

 「以前のようにまた観光客が来て、昔のように戻ってくれたらと思う。あの事故があったからみんな敬遠しているけど、いまは以前よりも安全に運航しているので本当にみなさん来てもらって知床を海からみてほしい。感動するんですよ見ているとパワーをもらえるし、ぜひみんな来てほしい」(古坂さん)

 世界自然遺産「知床」で生きる人たち。事故後も変わらずすばらしい姿をたたえる自然の魅力を伝えようと、3年目に歩みを進めようとしています。

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