目撃者のいない事故に大きな節目

 目撃者のいない事故…。発生から2年以上、捜査が大きな節目を迎えました。

 第一管区海上保安本部は9月18日、北海道斜里町知床半島沖で観光船が沈没し乗客乗員が死亡した事故で、運航会社の社長桂田精一容疑者を逮捕しました。

 フードをかぶった男。18日午後1時30分ごろ網走海上保安署を出てきたのは、桂田精一容疑者(61)です。

 「本日午前9時37分、KAZU1の運航会社取締役である被疑者桂田精一を業務上過失往来危険及び業務上過失致死の疑いにより通常逮捕した」(第一管区海上保安本部 藤田望 警備救難部長)

 2年以上にわたった目撃者のいない事故の捜査。

 18日、第一管区海上保安本部は業務上過失致死と業務上過失往来危険の疑いで、観光船カズワンを運行していた「知床遊覧船」社長の桂田精一容疑者(61)を逮捕しました。

事故後 桂田社長は…

 2022年4月23日午前10時ごろ、斜里町ウトロ漁港から乗客乗員26人を乗せ、出港した観光船KAZU1。

 「カシュニの滝近く。船首浸水、沈んでいる」(午後1時18分ごろ通報)

 知床半島沖でのこの通報後、KAZU1は沈没。海面水温約4℃の冷たい知床の海に26人は投げ出されました。

 「この度はお騒がせして大変申し訳ございませんでした」(知床遊覧船社長 桂田精一容疑者)

 事故発生から4日、桂田容疑者は会見を開き土下座。

 「海が荒れるようであれば引き返す、条件付き運航を豊田船長と打ち合わせ、出航を決定した。(Q:当日は強風注意報と波浪注意報が出ていたが把握していたのか?)していました」(桂田容疑者)

 「沈没したKAZU1がいま海面まで引き揚げられました、白い船体の半分が海面に出ています」

 知床観光船KAZU1沈没事故。乗客乗員20人が死亡し、6人が行方不明のまま。

事故はなぜ起きたのか

 なぜ事故が起きたのか。

 2023年9月、国の運輸安全委員会の事故調査報告書では、留め具に不具合のあったハッチから海水が流入。

 船底を仕切る壁の穴から海水が船底全体に流れ込んだことが原因と指摘。

 「私が引き受ける前から隔壁はなかった。私としてはJCIさんの検査を受けて、車でいえば車検みたいなもの、それが通っているんで普通に動かしていいもんだと」((事故後、UHBの取材に桂田容疑者))

乗客家族の思いは…

 「午前10時です。6人の弁護団が裁判所に向かって行きます、これから裁判の手続きに入ります」(斉藤健太 記者)

 2024年7月、一部の乗客家族は桂田容疑者を相手取り、札幌地裁に提訴。

 「いまだに誰も事件の責任をとっていない。家族はいまだに怒りに打ち震えている」(原告弁護団 山田廣 弁護士)

 事故から2年以上経った18日、桂田容疑者逮捕。運航会社の元従業員は。

 「人の命を預かってるっていう姿勢ではないよね。楽しんでもらって喜んでもらう、そういう心の中身がなかった。捕まって当たり前だ」(知床遊覧船の元従業員)

 海上保安本部は桂田容疑者の認否を明らかにしていません。

逮捕の報告を受けて被害者の家族は―

 母親とともに観光船に乗っていた当時7歳の男の子。2人の行方はいまも分かっていません。北海道帯広市の男性は2人の帰りをいまも待ち続けています。

 「誰も何の責任も取っていない。(桂田容疑者からは)謝罪もないしいつも言い訳ばかりして逃げてばかりで。責任をとらせたい、認めさせたい」(息子と元妻が行方不明の男性、4月)

 この2年、直接家族への謝罪一つなかったという桂田容疑者。男性は9月18日、逮捕の連絡を捜査機関から受けたと言います。

 「(逮捕の連絡が)突然だったのでびっくりした。 よかったな、やっと逮捕されたんだ。物事が一つ前に進んだと思いました」(息子と元妻が行方不明の男性)

 死者20人、行方不明者6人の事故からまもなく2年5か月…。ずさんな安全管理の責任を問われることになった桂田容疑者へ求めるものは。

 「 言い訳しないで自分の罪を認めてほしい。できるだけ重い刑罰を与えてほしい」(息子と元妻が行方不明の男性)

 男性は9月18日朝、2人に桂田容疑者逮捕の報告をしました。

 「(2人に)『桂田容疑者が逮捕されたよ、よかったね。時間がかかったけど逮捕されたよ』と言いました」

 桂田容疑者らに約15億円の損害賠償を求め提訴した被害者弁護団代表の山田廣弁護士は、「桂田氏に対し刑事罰を科してほしいということが、多くの被害者および家族の願い。桂田氏が逮捕されたことは刑事責任を明らかにする上で大きな一歩になる」とコメントしています。

逮捕について専門家は…

 今回の逮捕について専門家は…。

 「業務上過失致死はまさにその人の生命、身体を守るためのもの。業務上過失往来危険は社会的通行の安全を守るためのもの。大きい船を沈没させた危険を社会的に問うという観点もあったと思う」(磯部真士 弁護士)

 では、なぜこのタイミングでの逮捕になったのでしょうか。

 「運輸安全委員会の調査は一定の信用性が置けるが妄信していいわけではない。専門家の意見も踏まえ着手できる時期に至った。ここが最短だった。今回は逃亡というよりも“証拠隠滅をする恐れ”も踏まえ逮捕したのではないか」(磯部弁護士)

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