記者会見で謝罪して立ち上がる運航会社「知床遊覧船」の桂田精一社長=北海道斜里町で2022年4月27日、猪飼健史撮影

 一歩前進した――。知床半島沖で乗客乗員26人が乗った観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」が沈没した事故で被害者だけでなく家族、地元住民も計り知れない傷を負った。運航会社「知床遊覧船」の桂田精一社長(61)が18日に業務上過失致死などの疑いで逮捕され、関係者たちは相応の処罰を求めた。【金将来、本間浩昭、本多竹志、鈴木斉、山田豊】

 道内に暮らす乗船者家族の男性(52)は、18日午前10時ごろ、検察から桂田容疑者が逮捕されたとの連絡を受けた。「まだ起訴された訳じゃない」と冷静さを保ちつつも、「起訴されれば、なるべく一番重い刑罰を与えてほしい、というのが正直な気持ち。言い訳ばかりで人のせいにしていたが、もう逃げないで犯した罪を認めてほしい」と語った。

 男性は、事故当時、7歳だった息子と42歳だった母親の帰りを待っている。「事故から2年5カ月、苦しみ続けてきた。(桂田容疑者も)この苦しみを理解し、自分のしたことの重大さを知ってほしい」

北海道・知床半島(奥)の沖で観光船「KAZU Ⅰ」を捜索する漁船団(左下)=2022年4月25日午後0時39分、本社ヘリから

 犠牲者の一人である橳島(ぬでしま)優さん(当時34歳)=千葉県松戸市=は旅先だった斜里町ウトロの港でカズワンに乗り、事故に巻き込まれた。

 桂田容疑者の逮捕を受け、家族は代理人弁護士を通じて「『やっとこの日が来たんだな』と思った。立件されないかもしれないという情報もあり、心配していたが、今は少し安心しています」とのコメントを寄せた。また「潔く自分の罪を認めてほしいし、できる限り重い処罰が下されることを望む。裁判が早く終わり、一日でも早く息子を感じながら、家族全員で前に進みたい」と思いを明かした。

 多くの家族は「船が発航しなければ事件は起きなかった。何も罰を受けないのはあり得ない」「刑事的にも、社会的影響にも責任を果たすべき」などと語り、逮捕以前から強く立件を求めてきた。道内に住む被害者家族は「気持ちの整理がついていないが、何とか一歩前進したかなという思い」と受け止めた。

 逮捕を受け、斜里町でも衝撃が広がった。桂田容疑者と同じ地区に住む男性は「普段は出かけていることの多い時間なのに、今朝は桂田社長の車が自宅近くにあり、不思議に思っていた。特段、地元は騒ぎにならず、異様に静かだった」。桂田容疑者について「事故で知床全体の印象が悪くなった。精神的に追い込まれていたからかもしれないが、事故後も悪びれる雰囲気がなかったので刑事処分を受け、責任を取ってほしい」と話す。

 事故で経営に打撃を受けた知床の観光業者も責任を厳しく指摘した。

 事故直後に唯一、桂田容疑者が応じた記者会見にも関わった知床斜里町観光協会の新村武志事務局長(57)は「社長が逮捕されて、何かが終わったわけじゃない。知床の海の安心、安全の対策を前に進めていかなければいけないことに変わりない。事故を風化させず、知床の観光も前に進める」と語った。

 事故後に利用客数が落ち込み、今年3月末に廃業に追い込まれた小型観光船「ドルフィン」の元船長、鎌田日出明さん(65)は「この2年間、ずっとやるせない気持ちでいっぱいだった。できる限りの、最大の刑事罰を科してほしい」と吐露した。斜里町で民宿を営む70代女性は「新型コロナウイルス禍が落ち着きつつあって、『さあ、これから』という時期の事故だった。観光客の足が一気に遠のいて、今も戻っていない」と、深刻な影響を嘆いた。

 別の地元関係者は、桂田容疑者に「公判で、ありのままの言葉で語り、自らの責任の重さと向き合ってほしい」と呼びかけた。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。